本研究では、通常のバンド絶縁体に加えて、電子相関効果が本質的に重要なモット絶縁体や電荷秩序絶縁体などの強相関絶縁体の非線形効果を伝導現象の観点から探索することを目的としている。 本年度は、昨年度開発を進めた高調波測定を用いて、非線形伝導の発現がこれまでに報告されていた有機分子性導体の高調波測定を行った。通常の電気抵抗率測定の場合には、試料に基本波を与え、試料から生じる基本波の電圧を測定するのに対し、この測定システムでは、与えた基本波に対して、試料から発生する高調波を測定することにより、非線形成分の検出を行うことができる。この手法のメリットは、従来の手法では大電流を印加して非線形伝導を検出していたところ、高次の周波数測定によって低い電流で非線形伝導を検出可能な点にある。 その一方、基本波の信号と比較して、得られる高調波信号が大変小さいため(一般的にはナノボルトオーダー)、(1)電流源の歪みや(2)ロックイン電圧計の内部アンプの非線形性の存在が問題になることが測定を通じて分かってきた。そこで本年度は、ブリッジ回路を新たに構成し、上記の外因的な非線形性を除去し、試料の本質的な非線形伝導成分を検出することを目指した。その結果、有機分子性導体α-(BEDT-TTF)2I3単結晶において、電荷秩序相転移の相転移温度である136K近傍で、3次の高調波信号が発散的に増大することを見出した。この結果について、アメリカ物理学会のMarch meetingにて発表を行った。また、電流通電下において同時に温度勾配を印加し、熱起電力の電流効果についても同物質において検証した。その結果、電荷秩序相において熱起電力が電流に依存しているふるまいが観測され、その起源について検証を進めている。
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