研究課題/領域番号 |
18K13508
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
下出 敦夫 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (20747860)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カイラル渦効果 / カイラリティ誘起スピン選択性 / 電気四極子 |
研究実績の概要 |
(1) 高エネルギー物理の分野でカイラル渦効果 (CVE)と呼ばれている,系を回転させると渦度に沿って電流が流れる現象について研究を行った.相対論的な場合,回転させても系は平衡状態にあり,電流が流れることは直観に反する.波束の半古典論を用いてスピン渦度相互作用を考慮し,磁化電流を差し引くことで,CVEは輸送実験で観測されないことを明らかにした.一方,非相対論的な場合,結晶の対称性に応じて系が非平衡状態になる場合があり,異方的なCVEが輸送実験で観測されうることを示した. (2) カイラリティ誘起スピン選択性 (CISS)と呼ばれる,DNAなどのカイラル分子に電流を流すとスピンが偏極する現象について研究を行った.分子を構成する元素では通常のスピン軌道相互作用 (SOC)は無視できるほど小さいので,この現象は未知の巨大なSOCが存在することを示唆する.らせんなどを記述する曲線座標系における相対論的なDirac Lagrangianを書き下し,非相対論的極限をとることで,曲線の曲率を含む幾何学的SOCを見出した.このSOCはDNAの典型的なパラメタでは160 meVにも達する巨大なものである.2本のらせんが結合した簡単な模型において,幾何学的SOCによってらせんのカイラリティに依存する電流誘起スピン磁化が生じることを示した. (3) 高次の多極子のひとつである電気四極子の定式化を行った.回転対称性が破れた電子ネマチック相はよく知られた電気分極や磁化では特徴づけることはできない.電気四極子は秩序変数の有力な候補であるが,それを計算する方法は知られていなかった.これまで行ってきた磁気四極子の定式化に倣って,電気四極子を熱力学的に定義し,Bloch波動関数を用いた一般的な公式を導出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カイラル渦効果やカイラリティ誘起スピン選択性といった現象について回転座標系や曲線座標系などの曲がった時空における物性物理という観点から研究を行い,論文を出版することができた.
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今後の研究の推進方策 |
Kubo公式や波束の半古典論を用いて回転・渦度,温度勾配に対するスピンの応答理論を構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の感染拡大により,研究成果を発表するための学会が中止されたため,次年度使用額が生じ補助事業期間を延長した.現時点では収束の見通しが立っていないので,補助事業期間の再延長も視野に入れる.
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