励起子絶縁体(および励起子秩序)は、半導体-半金属転移付近でバンド間クーロン相互作用によって誘起された状態で、電子-ホール対(励起子)の量子凝縮としても記述される状態である。本研究課題は、励起子絶縁体およびその候補物質の深い理解に向けて、相関電子系における光誘起ダイナミクスの研究を理論的に行うものである。 平成30年度は、厳密対角化法などの数値計算を駆使して、励起子絶縁体を扱う二軌道模型における光誘起ダイナミクスを調べた。ここでは、パルス照射による励起子相関の減衰や、隠れた電子-電子ペア相関の誘起など、励起子絶縁体系に関する新しい識見を得ることができた。また、この課題と密接な関係にある現象として、Mott絶縁体において光誘起される異常な超伝導相関の上昇に関しても精力的に研究した。この研究では、Hubbard模型の固有状態の解析から、超伝導相関の上昇がη-pairing状態(スタッガードな電子-電子ペア密度波状態)に起因する現象であることを示した。 光誘起系ではないが、平成30年度は、励起子絶縁体の候補物質であるTiSe2やTa2NiSe5に関する研究成果も得ることができた。TiSe2においては、現実的な電子-格子相互作用を導入した多軌道相関模型を用いて電荷密度波状態の安定性を調べ、励起子相関(クーロン相互作用)と電子-格子相互作用が協力的に秩序を導いていることを示した。他の候補物質Ta2NiSe5においては、実験で観測されている光学スペクトル構造が励起子相関に起因していることを示唆した。また、実験グループとも協力し、TiSe2の層間にCuを挟んだ系で生じるCuの整列化とそれに付随した電荷密度波状態のメカニズムも明らかにした。
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