自発的な要素がより集まって織りなすマクロな現象を理解する枠組みとして、アクティブマターと呼ばれる領域が近年注目を集めている。これまでのアクティブマター研究では、生体分子や鳥の群れなどが主に対象とされてきたが、発生初期のダイナミクスや恒常的な組織における細胞集団移動のようなメゾスケールの現象にこそ、こうした物理的なアプローチが力を発揮することが期待される。本研究では、マウス由来の神経幹細胞を用いて、細胞が多数集まってできる配列パターン・構造と、その中で細胞が激しく運動し続けていること(=アクティブ性)がカップルして生じる現象の普遍的な理解を目指す。特に、3次元系における細胞流の実験系を構築し、その解析を行うことを目標としている。
2018年度は、神経幹細胞の細胞核(H2B)、F-アクチン(Lifeact)といった細胞運動や形状変化を観察するための因子や、細胞間接着において重要な役割を果たすと考えられるN-cadherin、alpha-E cateninを蛍光タンパクで標識するため、遺伝子導入法を条件検討した。具体的には、エレクトロポレーションとレンチウィルスを用いた遺伝子導入法試し、神経幹細胞への導入効率はエレクトロポレーション法が最も良いことを確認した。遺伝子導入後、ソーティングした細胞を増殖させ、さらに限界希釈法を用いて1細胞由来のクローンを作成した。こうして得られた細胞を、新規に導入した蛍光顕微鏡と共焦点顕微鏡を用いて2日以上にわたり細胞集団運動を観察することに成功した。
3次元の培養方法について、神経幹細胞をマイクロパターンの中に封入する方法、透明なチューブの形状の中に培養する方法など、さまざまな条件を検討した。その結果、ラミニンを主成分とする細胞外基質であるマトリゲルに神経幹細胞を高濃度で混ぜ、任意の形状にプレートする方法が最も有力であると発見した。
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