本研究はくしゃくしゃに丸めた紙に代表される内部構造を持つ弾性材料の力学特性を明らかにすることを目的にしている。初年度は、丸めた紙の皺を系統的に生成する方法を確立し、皺が発生する過程での力学的性質を実験的に明らかにした。同じ直径の金属柱を二つ用意し、一つをリニアステージに取り付ける。そしてもう一つをロードセルと共に光学定盤に固定する。金属柱に紙(Mylar sheet)を巻きつけ、巻きつけた紙を金属柱より少し大きな直径をもつアクリル円筒内に入れ、紙のもう一端を光学定盤に固定した金属柱に固定する。リニアステージの変位制御により、巻きつけた紙に対して圧縮と伸張を繰り返し、その際に発生する力を変位の関数として測定した。この繰り返しにより系統的に皺を発生することができる。ロードセルで測定した力変位曲線の結果から、皺を発生させる力にも先行研究で知られている「皺の全長」と圧縮伸張回数の関係に類似した関係式が実験的に得られた。紙に皺を発生させるという一見乱雑な過程にも普遍的な数理構造があることが示唆された。研究成果は未だ公表に至っていないが、共同研究者との議論を重ね解析を続けている。またアメリカ物理学会に参加し関連研究の情報収集を行なった。 内部構造を持つ弾性材料の簡単な問題として、円筒に切れ込みを入れたシェル構造体の力学特性を定量的にあきらかにした。切れ込みの入った円筒は、切れ込みのない円筒の場合と比べ、変形の緩和長が大きくなることがわかった。切り紙のような構造デザインを考える際の指針になりうると考えている。
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