液晶によって形成される滴(液晶滴)が液体溶媒中に分散した系において、温度勾配や電場を与えたときに生じる非平衡現象を対象とした研究を行った。観測される現象に対して近年提案されたオンサーガーの変分原理を適用し、その機構を解明することを試みる。さらにこの過程を通して上記変分原理の妥当性、有用性を検証し、その効果的な運用法を模索することを目的とした。 2020年度は主に、ネマチック液晶が形成する滴(N液晶滴)をサンドイッチセルに封入した系において、セル基板水平方向に直流電場を印加したときに発現する散逸構造を解析した。偏光顕微鏡観察の結果、電場下においてN液晶滴内部の配向場(液晶分子が並んでいる方向の空間分布)が、平衡状態から変形した状態で安定化することが分かった。このときの系の流動場を蛍光退色法によって測定したところ、滴内部に対流が駆動されていることが判明し、流動が配向場の変形に寄与を与えていることが示唆された。これに加えて、実験に用いた液晶分子の有する正の誘電率異方性によって、配向場には分子を電場の方向に配列させようとするトルクも加わる。以上より、配向変形は流動と誘電率異方性の2つの要因によって生じていると考え、この描像に基づいて実験系を単純化したモデルを設計し、オンサーガーの変分原理を用いて理論解析を行った。その結果、モデルは実験結果をよく説明し、上記描像が妥当であることが示された。 本研究では3年にわたって、温度勾配、および電場下において液晶滴内部の配向場が変形する非平衡現象を、オンサーガーの変分原理に基づいて解析してきた。この手法によって、期間内に研究対象とした現象の機構は、全てよく説明することができた。このことは、上記変分原理をソフトマター非平衡現象の解析に用いることが、妥当かつ有用であることをよく示していると言える。
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