研究実績の概要 |
本研究では、細胞内でみられる脂肪滴というオルガネラの内部で起こる液体液晶相転移現象に着目し、1)相転移ダイナミクスとその後の構造の物理的解明、更には2)相転移現象とマクロファージ泡沫化現象との因果関係の解明を目指す。今年度においては、脂肪滴の液体液晶相転移後にみられる構造に着目し、その物理的な解明を行った。具体的な成果としては、まず脂肪滴でみられる液体液晶転移を様々な培養細胞を用いてその普遍性を調べた。結果、HeLa細胞, COS細胞, MEF細胞,Huh7細胞など様々な細胞種で普遍的に液体液晶転移がみられることを見出した。また、偏光顕微鏡観察より脂肪滴内部の脂質分子は放射線状に並んでいることがわかった。これらの構造がどのような物理化学的なメカニズムで形成されるかを調べるために、試験管内で脂肪滴を構成する脂質と界面活性剤を用いて人工的に脂肪滴を再構成した。結果、興味深いことに人工脂肪滴の内部構造はサイズ依存的に転移することが見出された。細胞内の脂肪滴程度のサイズでは細胞内と同様の放射線状の構造がみられたが、70um程度を境にポリドメイン状の構造へと転移することがわかった。この転移がなぜ起こるのか、そのメカニズムを空間的に拘束された液晶理論を用いて解明した。結果、細胞内脂肪滴で脂質分子が放射線状に並ぶ理由は脂肪滴界面でのアンカリングがサイズが小さくなることで内部の弾性エネルギーに比べて相対的に大きくなるからであると結論づけた。
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