研究課題
本研究ではタングステン材料表面および堆積層中の水素同位体挙動に注目し、断続照射がタングステン表面近傍の水素同位体吸蔵特性に与える効果とその要因を詳細に検討することを目的とする。そのために、(1)タングステン材料表面における超高密度状態の水素同位体挙動の研究、(2)多層構造化したタングステン堆積層における水素同位体挙動の研究、(3)核融合実験装置を用いた実機の水素同位体蓄積の研究、を行っている。今年度は、断続照射条件と新しい物理過程に対応するシミュレーションコードの開発、タングステン堆積層中の水素同位体吸蔵量の測定、および、実験装置の整備と試験運用を行った。(1)の研究を推進することを目的として、断続照射材料中の水素輸送に関するシミュレーションコードを開発した。それにより、従来の水素輸送モデルでは説明することができない物理を検討し、断続照射時の新しい水素輸送モデルの構築とその評価を進めている。(2)の研究を推進することを目的として、タングステン堆積層における水素同位体吸蔵量を調べた。まず、脱離した軽水素を精度良く測定できるよう、昇温脱離分析装置の改良を行った。次に、多層構造化したタングステン堆積層中の軽水素吸蔵量を測定する実験を行った。その結果、実験条件は異なるが、単層構造に比べて多層構造中の軽水素吸蔵量が変化しているという、初期的な実験事実を得ることができた。(3)の研究を推進することを目的として、実験装置の整備と試験運用を行った。九州大学応用力学研究所の長時間放電型核融合実験装置QUESTの高速試料搬送装置の整備を行った後、材料中の軽水素の動的吸蔵量を測定する実験を試験的に実施した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、(1)タングステン材料表面における超高密度状態の水素同位体挙動の研究、(2)多層構造化したタングステン堆積層における水素同位体挙動の研究、(3)核融合実験装置を用いた実機の水素同位体蓄積の研究、を行っている。(1)の研究を推進することを目的として、断続照射時の材料中の水素輸送に関するシミュレーションコードの開発を進めた。前年度に、既存のコードを用いて水素同位体吸蔵量を計算したが、過去の実験結果を再現することが難しいことが分かった。これは、断続照射の際に、従来の水素輸送モデルでは説明できない物理が存在することを示唆していると考えられる。そのため、今年度は、表面損傷の推移等より詳細な実験条件に対応し、従来の水素輸送モデルにとらわれることなく、予想される物理過程の追加などを機動的に行えるコードの開発に取り組み、断続照射時の水素輸送モデルの構築と評価を進めている。(2)の研究を推進することを目的として、タングステン堆積層における水素同位体吸蔵量の測定を行った。まず、前年度から引き続き昇温脱離分析装置の整備と改良を進め、脱離した軽水素を精度良く測定できることを確認した。次に、九州大学の高周波プラズマスパッタリング装置を用いて、多層構造化したタングステン堆積層を作成し、その堆積層中の軽水素吸蔵量を測定する実験を行った。その結果、実験条件は異なるが、単層構造に比べ、多層構造化した堆積層の軽水素吸蔵量は変化しているという、初期的な実験事実を得た。(3)の研究を推進することを目的として、実験装置の整備と試験運用を行った。前年度から引き続いて、九州大学応用力学研究所の長時間放電型核融合実験装置QUESTの高速試料搬送装置の整備を行い、所望の動作を制御できることを入念に確認した。そして試験的に、金属材料をトカマクプラズマに曝露させ、材料中の軽水素の動的吸蔵量を測定する実験を実施した。
断続照射がタングステン表面近傍の水素同位体吸蔵特性に与える効果とその要因を詳細に検討することを目的として、本研究を進める。(1)タングステン材料表面における超高密度状態の水素同位体挙動の研究については、新しい水素輸送に関するシミュレーションコードの改良と運用を進める。それにより、タングステン材料表面における超高密度状態が引き起こす物理に着目しながら、断続照射時の新しい水素輸送モデルの構築を行う。また、適宜、高フラックス線形プラズマ照射装置を用いた実験も行う。水素同位体吸蔵量の測定には、前年度と今年度に整備した昇温脱離装置を用いる。(2)多層構造化したタングステン堆積層における水素同位体挙動の研究については、今年度に得られた初期データを精査するため、九州大学の高周波プラズマスパッタリング装置と昇温脱離装置を活用して、系統的な実験を行う。それにより、多層構造が水素同位体挙動に与える影響を明らかにする。(3)核融合実験装置を用いた実機の水素同位体蓄積の研究については、九州大学応用力学研究所の長時間放電型核融合実験装置QUESTの高速試料搬送装置を用いて、金属材料をトカマクプラズマに曝露させ、水素同位体吸蔵量を測定する実験を引き続き実施する。
本年度は、シミュレーションコードの開発、実験・分析装置の整備とそれらを用いた実験を中心として、研究を実施した。シミュレーションコードの開発については、既存の計算機設備(ワークステーション等)を使用しても十分に実施可能であったため、次年度使用額が生じた。今後このコードで計算を行い、モデルの構築とその評価を進める。また、その結果は今後のプラズマ照射実験を行う際の実験計画にも生かされるため、金属材料試料の購入や出張実験の旅費等に次年度使用額を使用する予定である。実験・分析装置の整備は、既存の装置の改良を中心に行っていたが、本年度当初の予定よりも非常に円滑に実施することができたため、次年度使用額が生じた。また、これらの実験・分析装置を用いて、初期的・試験的な実験を行い、有効性や精度を確認することもできた。そのため、今後、これらを積極的に活用して、より系統的で詳細な実験を行う計画であり、その際の金属材料試料の購入等のために次年度使用額を使用する予定である。
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Plasma and Fusion Research
巻: Accepted ページ: -
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