大気圧プラズマは簡易な構成でプラズマ生成が可能であるため、様々な産業への応用が期待される。プロセス速度において最も重要となる化学活性種(ラジカル)供給量は、プラズマの密度とサイズ、電子温度により決定される。申請者はこれまでの研究で大面積表面処理用のメートル級長尺の高密度大気圧マイクロ波プラズマ源を世界で初めて実現した。しかし、高電子密度プラズマであったとしても、電子温度が低ければ生成されるラジカル量が少ないことがプロセスへの応用において問題となる。そこで、本研究では大気圧マイクロ波プラズマの電子温度制御による解離促進手法を確立し、高密度ラジカル生成を目的とする。本研究が成功すればラジカル供給量の制御による大気圧プラズマプロセスの性能の飛躍的な向上が期待できる。 2020年度においては、導波管に設けた狭ギャップスロット内に発生させるパルスマイクロ波放電により、30 cm程度の酸素添加アルゴンプラズマを、大気圧下において安定的に生成できる装置を製作した。樹脂フィルムサンプルを掃引し、プラズマ照射することにより、表面の親水性の評価を行ったところ、酸素添加により処理速度が飛躍的に向上した。また、30 cmに渡って空間均一な処理が確認された。樹脂を分解(アッシング処理)し、その削り深さから処理速度を評価した。アッシングの処理速度は数10μm/min程度と、従来の処理方法と比較して非常に高速の処理を達成した。 一方で、プラズマを安定生成できるウィンドウが狭く、統一された実験条件での放電維持が困難であった。このような放電特性の原因や、前述の高速プロセスのメカニズムは明らかになっていないため、これらの調査は今後の課題である。
|