研究課題/領域番号 |
18K13537
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
藤田 智弘 早稲田大学, 高等研究所, 講師(任期付) (20815857)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙論 / 重力波 / インフレーション |
研究実績の概要 |
本研究課題では初期宇宙からやってくる原始重力波の新しい生成メカニズムと、作られた重力波の観測的性質を詳しく調べることが主なテーマである。これまでは主にSU(2)ゲージ場から放出される重力波について調べてきたが、本年度はそれを大きく拡張し、一般のSU(N)ゲージ場が存在するインフレーションのモデルの構築と、そのモデルにおける重力波の生成について研究し2本の論文を出すことができた。概要は以下の通りである。 (i)これまでゲージ場が背景成分(vev)を持つようなインフレーションモデルはSU(2)の場合であるchromo-natural inflation modelしか知られていなかった。私は共同研究者らとそれを拡張し、一般のSU(N)ゲージ場でも同様の安定解が多数存在することを示した。個別の解はSU(N)におけるSU(2)部分群に対応するため、Nが大きいほど解の多様性は大きくなる。また、解ごとにゲージ場の振幅も異なる。有効ポテンシャル等を用いた解析的な議論と、全ての自由度の時間発展を数値的に解く直接的な計算の両方を行い、両者が一致することも示した。 (ii)上で見つけたSU(N)の背景解のまわりの線形摂動論を解析し、観測的な示唆を調べた。理論の自由度は大きいものの、曲率ゆらぎや重力波というよく知られた観測量と最低次で結合するのは、背景成分を持つSU(2)部分群の摂動だけであることを示した。さらに上述の通り、背景解はSU(2)のものとは一般に異なる性質を持つが、その違いは(未知の)ゲージ結合定数と縮退しており、一次摂動の範囲ではSU(N)はSU(2)と見分けがつかないという普遍性があることを発見した。しかしながら、摂動の高次効果(ループ効果)を取り入れる、あるいは複数ある背景解の間の遷移が起こる場合はこの縮退は解かれるので、SU(N)固有の観測的示唆が得られる可能性もある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
非可換ゲージ場であるSU(2)ゲージ場は非常に強い重力波を出すことが知られていたので、その自然な拡張であるSU(N>2)はこの科研費継続期間中にずっと取り組みたい課題であった。当初はSU(3), SU(4)と1つずつ順番に解析を進めていくしかないと考えていたが、共同研究者らの奮闘、特に優秀な学生が頑張ってくれたことで、SU(N)に対する一般論を一気に構築することができた。これは当初の計画以上の成果といえる。ただし、SU(N)ゲージ場の背景解を構成・分類はできたものの、そのゆらぎが生成する重力波についてはまだ調べきれていない。
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今後の研究の推進方策 |
SU(N)ゲージ場の一般的な背景解は構成でき、それが最もシンプルな場合はSU(2)と全く同様の重力波を生成することも分かった。しかし、これはゲージ結合定数が未知で、背景解が1つの局所安定解に留まっているときの、摂動の最低次の結果にすぎない。これらの簡単化の仮定を破った場合、どのようなシグナルが得られるのか調べるのは非常に興味深い。例えば、初期条件としてゲージ場がいない状況から時間発展を開始した際に、我々が見つけた安定解のうちどの解にどのように行き着くのかは非自明な問題である。また、ゲージ群としてSU(N)を考えているのは、素粒子標準模型がU(1)×SU(2)×SU(3)であるということからの類推にすぎず、初期宇宙においては全く別のゲージ群が存在したかもしれないため、他の群についても調べていくのも面白いだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度もCovid-19による世界的なパンデミックのため、海外出張はできなくなり、国内出張も非常に制限された。特に、国際共同研究や国際学会での発表のための海外渡航に使用しようとしていた予算が全く使えなかった。代わりにオンラインでの会議出席や発表は増えたが、支出額は予定よりも大きく減った。ただし、数回の国内出張は実施できた。これからは感染症対策の行動制限は徐々に緩和されていくと考えられる。次年度には海外出張も可能になる見込みである。次年度には積極的に会議に参加したり共同研究者との研究打ち合わせを行い、残額分を使い切る。
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