強い相互作用をする基本粒子であるクォークやグルーオンは、日常世界ではハドロン(核子、中間子)の中に閉じ込められているが、超高温の環境下で解放されプ ラズマ状態(クォーク・グルーオン・プラズマ)を形成する。クォーク・グルーオン・プラズマでは遮蔽や散逸など様々な媒質効果を受けるため、そこで働く 力は真空中での閉じ込め力とは質的に異なる。本研究の目的は、クォーコニウムを通じて、クォーク・グルーオン・プラズマ中で働く力に対する媒質効果を統一的に理解することである。 2022年度は、クォーコニウムのカラー自由度と量子散逸の両方を取り入れたシミュレーションの総括を行った。具体的には、空間1次元のLindblad方程式のシミュレーションを行い、密度行列の時間発展や熱平衡化、クォーコニウムに対する双極子近似の妥当性、について詳細に解析した。当該分野では双極子近似を用いたLindblad方程式の3次元空間での数値計算が盛んに行われている。我々の解析により、双極子近似は空間の境界条件による制約から有限体積では熱平衡化と相容れないことが判明した。一方で相対論的重イオン衝突実験ではクォーコニウム(Υ粒子など)は熱平衡化に達する前に観測されるので、双極子近似の妥当性は有限時間で十分である。初期状態を1重項の束縛状態や8重項の波束状態のような局在状態とした場合に、双極子近似が短時間に限り妥当であることを確認した。この結論は3次元空間で双極子近似を用いたLindblad方程式の数値計算の適用範囲を議論する際の目安になると期待される。
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