研究課題/領域番号 |
18K13543
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
林 博貴 東海大学, 理学部, 准教授 (10780273)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超弦理論 / 超対称ゲージ理論 / Topological vertex / ヒッグス枝 |
研究実績の概要 |
本研究では、「Topological vertex」という手法を用いて様々な5次元超対称性理論の分配関数を計算することを目標としている。2020年度では、これまで困難であった基本表現物質場が入った5次元F4、E6、E7ゲージ理論の分配関数のTopological vertexによる計算に成功し、またO5という種類のオリエンティフォールドが入った場合のTopological vertexの計算手法の拡張を行い、これらの内容をarXivに発表していた。2021年度においてこれらの研究成果は学術雑誌に掲載された。
2020年度は5次元超対称性理論における真空の種類の一つであるヒッグス枝の研究に着手したが、2021年度もその研究を継続し、さらに発展させた。まず2020年度にarXivに発表した5次元SO(4)ゲージ理論のヒッグス枝に関する論文は、2021年度において学術雑誌に掲載された。2021年度はその内容を5次元SO(6)ゲージ理論及び5次元SO(8)ゲージ理論へと拡張した。ブレーンを用いることで、それらのゲージ理論のヒッグス枝を解析できる3次元超対称ゲージ理論を求め、その3次元理論を利用して、ヒッグス枝の情報を含んだヒルベルト級数の計算を行った。SO(6)のリー代数はSU(4)のリー代数と同型であるため、5次元SO(6)ゲージ理論のヒッグス枝と5次元SU(4)ゲージ理論のヒッグス枝は関係していると考えられる。両者のヒッグス枝を記述することができる3次元理論を求めると、一見別の理論に見えるのだが、それらのヒルベルト級数を計算すると実際に一致することが確かめられた。また5次元SO(6)、SO(8)ゲージ理論のヒッグス枝のヒルベルト級数を計算する際に、従来の計算方法では困難がある場合もあったが、その困難を解消する手法も開発した。この内容はarXivにおいて発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画は2018年度からの三年間で(I)基本表現物質場が入った5次元E6、E7ゲージ理論及び5次元F4ゲージ理論の分配関数の計算、(II)5次元G2ゲージ理論の分配関数の計算、(III)5次元超重力理論の状態数の計算を行うことであった。実際に2020年度までの研究で、(II)は成功し、(I)も大部分が成功、そして(III)はその実現への第一歩となる論文を発表することができた。
2020年度は新型コロナウイルスの影響で、旅費として助成金を使用することが困難となったため、2021年度も本研究課題を延長した。2021年度は、当初の研究計画にある内容と直接関係する方向性の研究をさらに進めることはあまりできなかったが、代わりに2020年度に開始した5次元超対称性理論のヒッグス枝の研究においてさらなる進展を得ることができた。特に、5次元超対称性理論のヒッグス枝のヒルベルト級数の計算において、従来は問題となっていたことを解消する手法を開発した。この手法は、O5が入ったブレーン構成によって実現される様々な5次元超対称性理論のヒッグス枝の計算へと応用することが可能なことが期待されるため、5次元超対称性理論のヒッグス枝の研究を今後さらに進展させる可能性を秘めている。
従って、当初計画にあった三年間で三つの研究計画のうち二つで大きな成果をあげることができ、もう一つについてもその一歩となる成果を出すことができている。また、研究課題が延長された昨年度においては、新たな研究の方向性において成果をあげることができた。そのため、全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まずは5次元超対称性理論のヒッグス枝に関する研究をさらに発展させることを考えている。2021年度の研究において、5次元SO(6)、SO(8)ゲージ理論のヒッグス枝に関するヒルベルト級数を計算する際に、従来は問題となっていたことを解消する手法を開発した。この手法は、他のゲージ群を持つ5次元超対称性理論のヒッグス枝のヒルベルト級数の計算にも役立つことが期待される。特に興味深い理論が、O5入りのブレーン構成によって実現できる5次元G2ゲージ理論である。ブレーンを用いることで、5次元G2ゲージ理論のヒッグス枝を記述できる3次元超対称性ゲージ理論を求め、その3次元理論からヒッグス枝のヒルベルト級数を求める際に、新たに開発した手法を応用する。この解析を通して、5次元G2ゲージ理論のヒッグス枝の性質を明らかにしていきたい。
また、当初の目的と直接関係する5次元超対称性理論を実現するブレーン構成及びそれを用いたTopological vertexによる分配関数の計算もさらに進展させることも考えている。特にtrivalent gluingの手法を用いたブレーン構成では全ての例外群を実現することにも成功したので、この構成法をさらに発展させていきたい。より多くの5次元超対称性理論をブレーンで実現し、それらの分配関数を計算することで、5次元超対称性理論の性質をより詳細に理解していく。それらの知見を深めることで、長期的には、元々の研究計画にあった5次元超重力理論の状態数の計算へとつなげていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、共同研究者と円滑に研究を進めるためなどの旅費が助成金の主な使用用途である。しかし、2021年度も2020年度から引き続いて、新型コロナウイルスの影響で、国内及び海外に出張に行くことができなかった。そのため旅費が発生せず、次年度使用額が生じた。2022年度は、対面研究会が行われ始め、国内出張ができる環境が整いつつある。従って、当初の予定通り、2022年度は主に旅費として助成金を使用していくことを計画している。
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