研究課題/領域番号 |
18K13547
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
西中 崇博 立命館大学, 理工学部, 助教 (20773021)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超対称性 / 共形場理論 / 双対性 / 超弦理論 / 素粒子論 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究成果は主に「アルジレス・ダグラス(AD)理論のカイラル代数に関する新発見」、「AD理論を含むゲージ理論の双対性の理解」の2つである。 まず「AD理論のカイラル代数に関する新発見」に関しては、AD理論を3つ集めてゲージ化した超共形場理論に付随するカイラル代数を調べ、それがN=4超対称ヤン・ミルズ理論に付随するカイラル代数と線形同型であることを数学的に示した。これは2018年度に得られた超共形指数の間の非自明な関係式が、BPS演算子の空間の線形同型性に由来するものであったことを意味している。またこれにより、超共形指数の関係式が成り立つ他の理論についても同様の線形同型性が従うのではないかと期待される。 つづいて「AD理論を含むゲージ理論の双対性の理解」に関しては、N=2超対称SU(2)ゲージ場に2つのAD理論と1つの物質場を結合させて得られる(A3,A3)理論について、双対性変換のもとでのパラメーターの振る舞いを明らかにした。これは2019年度に計算したこの理論の「分配関数」を詳細に調べることにより達成された。特にゲージ結合定数の振る舞いに関しては、T変換とS変換の両方について解明できた。またその他のパラメーターについても、T変換のもとでの振る舞いに関して大きな発見があった。 また前段落で述べた解析の過程において、(A3,A3)理論のネクラソフ分配関数と、N=2超対称SU(2)ゲージ理論でフレーバー数が4のもののネクラソフ分配関数の間に、非自明な新しい関係があることを明らかにした。これら2つの理論は全く異なる場の理論であるが、実は2019年度に発見した「超共形指数の間に非自明な関係が存在する無限個の理論対」の一例である。そこでこれらの理論対全体について、上述のネクラソフ分配関数の間の関係が拡張できるかどうか、今後の研究で明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、ゲージ化されたAD理論の「分配関数」と「カイラル代数」を調べることにより、これらの理論の双対性を明らかにすることである。 このうち「分配関数」については当初の計画通りに成果をあげ、特に前述の(A3,A3)理論に関しては、理論のパラメーターが双対性変換のもとでどのように振舞うのかを明らかにすることができた。さらにその副産物として、よく知られたゲージ理論と(A3,A3)理論のネクラソフ分配関数の間に非自明な関係が存在することを発見した。後者については当初の計画にはなかったものであるが、後述の「カイラル代数」に関する成果と合わせることで、今後の大きな方向性を提示する画期的なものである。 一方で「カイラル代数」については、2019年度の成果として「超共形指数の間に非自明な関係が存在する無限個の理論対」を発見した。さらに2020年度には、これらの理論対の1つについて、付随するカイラル代数が線形同型にあることを示した。これは一見全く異なるように見えるこの理論対について、BPS演算子のなす線形空間は「ほぼ等しい」ということを意味している。また上述の通り、もう1つの理論対については、超共形指数だけでなくネクラソフ分配関数も同様の非自明な関係にあることを明らかにした。これらの成果を踏まえると、2019年度に発見した無限個の理論対の間には、何らかの本質的なつながりがあるのではないかと考えられる。このつながりを正確に理解できれば、AD理論を含まない通常のゲージ理論の知識を用いて、AD理論を含むゲージ理論の双対性を理解することができると期待される。 このように、本研究では「分配関数」と「カイラル代数」を用いたAD理論の双対性の解明を計画通りに行うだけでなく、当初の計画にはなかった画期的な方向性を見出すことができているため、本研究計画は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず「分配関数」については、2020年度に得られたSU(2)ゲージ群の場合の成果をSU(3)ゲージ群に拡張する。SU(2)ゲージ群の場合、すなわち(A3,A3)理論の場合は、S双対性が完全に自己双対なので比較的単純であるが、SU(3)ゲージ群の場合には自己双対ではない双対性変換が存在するため、S双対性が大きく非自明になる。特に、異なる双対フレームに現れるAD理論はよく理解されておらず、その分配関数を計算することは非常に重要である。そのための一歩として、まずは2つのAD理論と物質場をSU(3)ゲージ群でゲージ化した理論のネクラソフ分配関数を計算する。この理論には、前述の「超共形指数の間に非自明な関係が存在する理論対」の観点から、対になる理論が存在する。そこで、対をなすこれらの理論のネクラソフ分配関数を比較し、(A3,A3)理論の場合と同様の関係が得られるかどうかを明らかにする。仮に同様の対応が得られた場合は、その対応関係がSU(N)ゲージ群の場合に一般化できないか考察する。 また「カイラル代数」については、ゲージ化されたAD理論とN=4超対称ヤン・ミルズ理論のカイラル代数の間の線形同型性を、無限個存在するその他の理論対に一般化できるかどうかを調べる。この一般化においては、理論対の両方において非自明なヒッグス・ブランチを持つことがあるため、これまでの成果では分からなかった対応の詳細が明らかになると期待している。またこの一般化が可能であれば、ゲージ化されたAD理論のS双対性を線形同型性の立場から理解する方法についても考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により全ての研究会がオンラインになってしまったため、次年度使用額が大きく生じることとなった。特にイタリアで行う予定であった招待講演がオンラインになったことが、次年度使用額を大きく引き上げる要因となった。また国内外の共同研究者とのディスカッションも対面で行うことは少なく、オンラインで行うことが多かったため、結果として旅費の使用額がゼロとなり、旅費に充てる予定であった額が全て次年度使用額に含まれることとなった。 2021年度の使用計画としては、発表用のノートパソコンを買い換える必要が生じたため、一部はその購入のために使用する予定である。また一部は謝金に充てることも検討している。次年度後半に新型コロナウイルスの流行が収まっており、少なくとも国内出張が可能であるならば、次年度使用額の一部を研究会や学会への出張旅費に充てることも考えている。
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