研究課題/領域番号 |
18K13548
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 章詞 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 上級研究員 (20791924)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 機械学習 / マルコフ連鎖モンテカルロ法 / ハイブリッドモンテカルロ法 |
研究実績の概要 |
本年度は引き続き本研究課題の目標であるゲージ自由度と物質場を含んだ4次元の量子場の理論におけるモンテカルロ計算を機械学習で高速化する研究を行った。具体的には、これまでとは異なり自己学習モンテカルロ法の考えをハイブリッドモンテカルロ法と呼ばれるより洗練されたモンテカルロ法に適用しゲージ理論に応用する研究を行なった。すでに行なった自己学習モンテカルロ法の手法ではフェルミオンが入った場合にその寄与を直接の行列式計算で評価せざるを得なかった部分があり、これが計算を重たくしている一つの原因だったが、今回の手法ではその重たい部分が別のモンテカルロ計算に置き換えられるため、計算時間が緩和される可能性があり重要である。また、ハイブリッドモンテカルロ法はゲージ理論の数値計算ではスタンダードな手法であるため、機械学習で改良を試みることには達成した際のインパクトの面から考えても意義があると考えている。 問題はこの場合に機械学習モデルとしてどのようなモデルを用いるのかという点にある。ゲージ理論の数値計算を深層学習で高速化するという旨の論文も出てきているが、高速化だけではなく物理学そのものへのフィードバックの可能性を考えた場合、物理的解釈の余地を残したモデルを運用するのが良いように思われる。問題に適した学習モデルを構成することは機械学習の立場から見ても重要であるため、本年度はそのような立場から、ハイブリッドモンテカルロ法に適切な学習モデルの検討を理論、数値実験の観点から行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までで理論の大枠の部分と実際の数値計算、論文の執筆までは完了しており、当初の第一目的であった「機械学習の手法でモンテカルロ計算を高速化する」ことへの足掛かりはつかめていると考えている。今年度はその詳細部分を詰めている段階である。上に挙げた論文での計算量のボトルネックの一つにフェルミオンの寄与の計算があるが、それをハイブリッドモンテカルロ法によって解消しようとするのは自然なアイデアであると思われるため、大筋では正しい方向に向かっていると思われる。機械学習の手法にはよくあることだが、あとは機械学習モデルをどのように構築するかが問題であり、それを議論している。特に物理的な解釈の余地を残してモデル構築する点が、学習を汎化させるという意味でも、あるいは物理学に何らかのフィードバックを与える可能性という意味でも重要だと考えており、その範疇内での良いモデルを設計することが課題であるが、それについてもいくらか良い実装可能なアイデアが出始めてきており、今後はより具体的な実装や検証の段階に入ってゆく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず第一に、すでに挙げた論文の出版に向けての作業を完了させる必要があると考えている。これについては共同研究者含めて大筋では完成に近づいてきており、追加の数値実験などが必要になる可能性はあるが、近々達成の見込みである。 第二に、今年度議論してきたハイブリッドモンテカルロ法で自己学習させるために適した「帰納バイアス」をもつ機械学習モデルを実装可能なレベルで提案することが必要であるが、こちらも共同研究者との議論によりいくつか良さそうなアイデアが出始めてきているので、今後はそれらの理論や実装に焦点を当てて研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で学会出張などが全てなくなってしまったため、また今年度は前年度に構成したパラダイムに基づいて、主に理論や実装の議論について議論を深めていたため、論文執筆と議論のための計算機購入以外に大きな計算機の購入の必要がなかった。次年度は大きな数値実験が必要になると予想されるため、計算機購入などに充てたいと考えている。また、コロナの影響下とはいえ、だんだんと研究会の実地開催も行われてきているので、研究発表や情報収集のために出張の必要も生じる可能性があると考えている。
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