ブラックホールはユニタリー時間発展をする量子多体系である。ということは、その正体を真に理解するためには、ホライズンと言う古典力学に基づく特徴づけを最初から用いず、量子論的ダイナミクスで一貫して内部を特定する必要がある。本年度は、その内部は4次元球対称静的配位と仮定し、半古典的Einstein方程式を直接解いてその可能な配位全てを調べた。そこでconformal matter fieldsとある状態方程式を仮定した。すると、半古典的Einstein方程式のトレース成分はトレースアノマリーにより量子状態に依存しない幾何学的方程式になり、その解が内部を完全に決定する。これはPlanck定数に関して非摂動的な解も自動的に含んでいる。全ての解を調べた結果、物理的な境界条件を満たすものが一意的に定まった。それは、中心から外側に向かって見た場合、その中心近くはある半径r0まで平坦時空であるが、次第にPlanckスケールに近い曲率をもつ高密度領域になり、そしてSchwarzschild計量と接続するものである。それはホライズンの代わりに表面を持つ。しかし、もし上記の状態方程式を内部全域に用いずに部分的領域に適用するならば、内部構造は上記の高密度領域とある希薄領域が様々なパターンで現れる。この内部幾何学の多様性のパターン数(“幾何学的エントロピー”)を調べると、半径r0が小さいほうが統計的に見て典型的であることがわかった。つまり、内部全域が高密度領域となっている配位が典型的であり、これがブラックホールの内部構造だと考えられる。これは私が以前に得た、重力崩壊中に生成される粒子の蒸発のback reactionを取り入れた結果得られる半古典的アインシュタイン方程式のself-consistent解に一致している。
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