研究課題/領域番号 |
18K13553
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
本多 佑記 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (70807685)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 電子散乱 / 散乱チェンバー / 陽子半径問題 |
研究実績の概要 |
申請者は低エネルギー電子散乱による陽子半径測定を目指している。実験では、測定する散乱角度を任意の角度に変更すること、ビーム・散乱電子の通り道を全て真空で繋ぐことが要求される。これはRosenbluth分離を行うことと、使用する電子ビームが最低20MeVと非常に低いエネルギーであるため空気・膜による多重散乱を避けるためである。そのため、本課題では接続角度が連続的に変更可能な真空散乱チェンバーの開発を行っている。 前年度はチェンバーの核となるフランジ付き球部分のテスト機を作成し、O-ring による真空シールの実証と可動性の確認を行った。その結果、10^-5 Pa の高真空を得ることができ、また、フランジの可動性も問題ないことが分かった。 しかし、シミュレーションから、開発中の真空散乱チェンバーが電子散乱実験の大きなバックグラウンド源となることが分かった。本散乱チェンバーは設計上、標的から数cmと非常に近い場所にフランジ付き球の球体部分を設置する必要がある。散乱電子はその球に開けた円錐形の穴を通過し、検出器へと入射する。しかし、一部の散乱電子はその穴の側面に衝突・散乱し検出器へと入射してしまう。このような反応が実験のバックグラウンドとなる。Geant4を使用したシミュレーションでその量を見積もったところ、S/N比は1:100程度となり、目標とする1:1000に到達できていないことが分かった。そのため、現在は球体の材質や穴の形状を最適化することでバックグラウンドの軽減を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
許容を超えるバックグラウンドの存在が発覚したため、進捗は遅れている。しかし、球とO-ringによる真空シールと可動性の確認は行った。これにより、原理としての検証は終了しており、球部分のデザインについても候補が出つつある。これが完了すればチェンバーの製作へと進むことができるため、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
現在はバックグラウンドの軽減を行っている。具体的には、球体の素材をステンレスから原子番号が小さい物質、アルミ、アクリル等に変更することを検討している。しかし、これらの物質は柔らかいために傷がつきやすく、真空シールに問題が生じる可能性がある。そのため、バックグランド源となる球内部の一部のみをそれらの材質に変更することを検討している。また、球の外側に変更がなければ真空シール性や可動性にも変更は生じないため、これらの再検証は必要がない。 デザインを今年度前半に終了し、その後チェンバーの製作に入る。製作には約3カ月が必要であり、その後、チェンバーの試験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で開発している散乱チェンバーの肝であるフランジ付き球部分が、電子散乱実験でのバックグラウンド源になることがシミュレーションから発覚した。そのため、パーツの最適化が終了するまで特殊散乱チェンバーの製作を遅らせている。本研究予算の大部分は特殊散乱チェンバーの製作費であるため、その購入を遅らせたことで次年度使用額が生じた。
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