申請者はモデル依存性を極限まで排除した電子散乱による陽子半径測定を目指しており、本申請では、その研究に向けた低エネルギー電子散乱実験に対応可能な新しい真空直結型の散乱角可変な真空チャンバーの開発を目的とした。接続角度が可変な散乱チャンバーは既に実用化されているが、変更可能角度が小さい、真空漏れを度々起こすなど、様々な問題を抱えている。本申請で開発するチャンバーはそれらの問題点を解決しており、電子散乱実験のみならず、他の散乱実験や軟X線分光など多岐に渡り利用が可能である。 2018年度にはチェンバーの核となるフランジ付き球部分のテスト機を作成し、O-ring による真空シールの実証と可動性の確認を行った。その結果、10^-5 Pa の高真空を得ることができ、また、フランジの可動性も問題ないことが分かった。しかし、シミュレーションから、開発中の真空散乱チェンバーが電子散乱実験の大きなバックグラウンド源となりうることが分かった。 2019年度はその問題の解消を目指し、シミュレーションから、フランジ内部をアクリルなどの軽い材質で作成する、フランジの形状を最適化することで十分にバックグラウンドを軽減できる目途が立った。そのため、実機の作成、テストを行うために具体的な設計を制作業者と進めたが、申請当初は予定していなかった、チャンバー独自に角度変更のための駆動機構が必要となり、コストカットは測ったが、それでも費用が膨らんだ。そのため、設計は完了しているが、予算不足のため本科研費での作成には至らなかった。 今後、科研費等で新たに資金を調達し、実機の作成、テストを行う。
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