研究課題
申請者が使用する原子核乾板は、臭化銀結晶がゼラチン中に分散した乳剤層(感光層)に荷電粒子が通過した軌跡を記録する検出器である。この検出器の原理的な位置分解能は、現像後の銀粒子が読み取り装置で認識されるサイズで、その大きさはサブミクロンである。乳剤層は、乾板の現像・乾燥の行程の中で伸縮するため、プラスチックベース(200~500μm厚)に塗布して固定している。しかし、プラスチックは熱により膨張をするため、照射中や読み取り時の温度変化により変形してしまい、乾板の位置精度の低下に繋がる事が知られている。そのため、熱膨張率がプラスチックに比べて10~100倍小さいガラスを用いることで乳剤層の変形を極力押さえた新型の原子核乾板の開発を行った。結果、ガラスを用いた乾板(以降、ガラス乾板と呼ぶ)の位置精度とその読み取り精度とはほぼ同程度の0.31±0.16μmとなり、読み取りシステムの限界まで乾板の位置精度を向上させたことを確認した。また、このガラス乾板を用いて金属板と交互に積層させたECC(Emulsion Cloud Chamber)という検出器に宇宙線を照射し、複数本の飛跡同士で乾板間の位置関係を求め、さらにその位置ずれ量から運動量と相関のある金属板の物質量と相関のある散乱量を算出することで、宇宙線の運動量を1本1本推定出来る事を確認した。この検出器は、(ガラス乾板の治具を含めて)15cm[横]x20cm[縦]x20~30cm[高さ]とコンパクトであり、暗室さえあればどこでも組み立て可能なため、今後、様々な場所での宇宙線フラックスの測定に利用可能なものであると期待している。
3: やや遅れている
宇宙線を記録する部分である原子核乾板は、研究実績に示したようにガラス乾板を用いることで、高精度な位置分解能をもつ検出器の製作が可能になった。また、このガラス乾板の製造方法についても改良を重ね、1回の実験に使用する枚数(100枚程度)の製造であれば2週間程度で作製が可能で、実用化の目途が立った。2021年度は原子核乾板の開発に力を入れたため、磁場を用いた宇宙線フラックスを測定するための検出器の開発が遅れたが、ガラス乾板のECCを用いた宇宙線フラックスの新たな測定手法を開発することが出来た。
2021年度に作製したガラス乾板のECCでは、乾板30枚程のデータを用いて1~10GeVの運動量推定を行った。また、乾板間に挟んだ金属板は1mm厚のタングステンである。通過する物質量が多いとより高運動量が測定可能になり、逆に物質量が少ないと低運動量の測定の精度が高くなる。よって、挟む金属の種類の選定や厚さを変更し、測定したい運動量領域に適したECCの構造を考え、永久磁石を用いた磁場印加型の検出器についても再考し、観測データが少ない200MeV~10GeVの宇宙線フラックスの測定が可能なコンパクトな原子核乾板検出器のテスト機を作製する。
主に新型の原子核乾板の開発や、解析手法の開発を行ったため、これまでに購入してきた備品等で研究を進めた。残額の主な使用用途は、磁場印加型の検出器の製作のための永久磁石の購入のためである。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment
巻: 1034 ページ: 166741~166741
10.1016/j.nima.2022.166741