研究課題
本研究は、スピン偏極した不安定原子核からのベータ線の空間的非対称度を測定することによって励起状態のスピンを精密に決定するという独自の手法をより発展させることを目指す。そのために、スピンがある軸に揃った(スピン整列した)原子核からスピン偏極を生成する新たなスピン偏極生成方法を開発する。その手法を用いて中性子過剰な原子核の詳細な実験データを得ることを目的とする。本年度は以下2つの実験を行った。1. 本研究では、ベータ核磁気共鳴(ベータNMR)法において高速断熱通過法を用いて、スピンがある軸に揃った(スピン整列した)原子核からスピン整列を生成するという新たなスピン偏極生成法を提案してる。その実証実験を行った。実験は、2019年6月に放射線医学総合研究所 重粒子線がん治療装置 HIMACを用いて、スピン整列した不安定核13Bを生成して行った。その結果、およそ2%のスピン偏極を生成することに成功した。本手法の開発によって、理化学研究所におけるスピン整列した大強度中性子過剰ビームを用いて、励起状態の詳細な準位構造を調べる準備が整った。2. 中性子数20付近の中性子過剰なAl原子核の研究を行うために、偏極したMgビームの開発および中性子測定系の開発を行った。実験はカナダのTRIUMF研究所にて行い、レーザーを用いた方法でスピン偏極度3%の31Mgビームを生成することに成功した。測定系についても低エネルギー中性子用と高エネルギー用の2種類の検出器を配置することで、より広いエネルギー範囲の中性子を測定できるシステムが構築できた。
2: おおむね順調に進展している
本年度に行ったHIMACでの実験では、高速断熱通過法を用いてスピン整列からスピン偏極の転換するという新たなスピン偏極生成法を実証することができた。本手法での困難な点は、高速断熱通過法では振動磁場を高速断熱通過条件を満たしつつ掃引する必要があり、短寿命の原子核に適用する場合強度の大きい振動磁場が必要であるという点である。本研究では、新たに構築した5つの真空コンデンサーを組み合わせた磁場印加システムを構築した。その結果半減期が17msと短い13Bについても本手法が適用でき、少なくとも半減期が10ms程度の短寿命の原子核についても本手法が適用出来ることが確認できた。以上の手法や装置開発により、理化学研究所RIBFで生成される大強度の中性子過剰ビームに本手法を適用する準備が整った。それに加えて、TRIUMFで行った偏極Mgビーム生成も成功を収めたことで、魔法数20付近の中性子過剰なAlについての構造研究の準備ができた。
来年度9月に、HIMACで行った不安定核13Bを用いてスピン整列からスピン偏極の転換の手法開発の補足的なデータを取得する。特に、スピン整列に対する静磁場の向きとの相関に関するデータを取得したいと考えている。しかしなから、現在HIMACでのビームタイムが不透明なため、9月に実験が困難な場合は実験を送らせて対応する。TRIUMF研究所においても、より高偏極のMgビーム生成のためにビームラインに沿ってヘルムホルツコイルを配置するなどの開発を行い、再度31Mgビームを用いた実験を計画している。
当初予定していた補助事業期間中に研究代表者の所属の異動(理化学研究所→九州大学)があり、本年度6月にHIMACで行った実験の補足的なデータ取得、本年度実施した中性子過剰原子核の構造解明に向けた実験の解析およびその研究成果発表などが十分行えなかった。翌年度の計画として、本年度得られた結果についての研究発表および補足的データの取得のための実験を行う予定である。
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