研究課題/領域番号 |
18K13577
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西村 優里 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (90816191)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 星間化学 / 高赤方偏移銀河 / 銀河形成 / 星間物質 |
研究実績の概要 |
本課題の実施2年目にあたる今年度は、高赤方偏移クェーサーCloverleafについて、ALMA干渉計で得た0.8 mm帯の分子輝線サーベイのデータのより詳細な解析と、その解釈に必要な近傍の高光度赤外線銀河のHCN/HCO+輝線強度比のデータ解析を中心に研究を進めた。具体的には、昨年度の観測で得られたCloverleafの各分子輝線の像をもとに、他の波長の観測データを元に構築された重力レンズのモデルも活用しながら、重力レンズ効果による引きのばしと増光を差し引いた元の銀河の像を得る作業を行っている。これにより、分子種ごとの空間分布を調べ、物理状態と分子組成の対応づけをしたいと考えている。 また、Cloverleafの分子組成がどのような物理状態を反映したものなのか解釈する上で、Cloverleafと類似した性質を備えた近傍の高光度赤外線銀河との比較は欠かせない。そこで、特に明るいため多くの銀河で検出されるHCNとHCO+の各輝線に注目し、ALMA干渉計で観測された36個の銀河で、これらの輝線強度比がどのような空間分布になるか、その銀河を特徴付ける赤外線光度などのパラメータとどのような関係があるかを調べている。これらの銀河はCloverleafよりも近傍にある分、より小さな構造まで解像できているため、物理状態と分子組成をよりいっそう細かく対応づけられると期待している。 これらと併行して、当初の計画通り、Jansky VLA干渉計での3 mm帯にある低励起輝線の観測や、ALMA干渉計でのCloverleafとは異なる性質を備えた高赤方偏移銀河Eyelashの0.8 mm帯の分子輝線サーベイ観測の提案も行っており、データが取得されるのを待っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には、Cloverleafの0.8 mm帯の分子輝線サーベイデータを取得し、基本的な分子組成を明らかにできた。当初の計画では、この結果を速やかに取りまとめて本年度までに査読論文として出版したいと考えていたが、得られた高感度・高解像度のデータの解析を進めるうち、重力レンズ効果による引きのばしと増光が観測像に及ぼす影響を個々の分子種について検討することが、物理状態と分子組成の対応づけにおいて鍵を握る可能性が見出された。重力レンズ効果を差し引いて元の銀河の像を復元することは、本課題では当初は計画していなかったが、研究の目的と照らして重要と考え、現在精力的に取り組んでいる。この成果がまとまったところで、論文を出版したいと考えている。 一方、Cloverleafの解釈の上で必要になる、比較対象の銀河のデータの取得・解析については、当初の計画を大幅に上回る数と質のデータを揃えることができている。とりわけ、近傍の高光度赤外線銀河については、共同研究者として加わっているプログラムにおいて、非常に良質のデータを、まとまった数の銀河について得ることができ、統計的な解析もできる見込みである。Cloverleafとは別の高赤方偏移銀河をターゲットにしたALMA干渉計での観測提案もすでに採択されており、今後は解析・解釈に重点を移して取り組んでいきたい。 以上のように、研究内容について当初の計画を上回る進捗のあった点と、主に成果の出版の面で遅れている点の両方があるが、総合すればおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、当初の計画どおり、Cloverleafの分子組成の特徴を、他の高赤方偏移銀河および近傍の高光度赤外線銀河との比較によりまとめていく方針である。まず、現在取り組んでいる、重力レンズ効果を差し引いて元の銀河の像を得る解析を急ぎ完了させ、分子組成の大要と物理状態との関係をまとめ、査読論文の形で出版したい。続いて、共同研究者の協力も仰ぎながら、現在取り組んでいる途中である近傍の高光度赤外線銀河のHCN/HCO+輝線強度比と、銀河を特徴付けるその他のパラメータとの関係についても解釈を深め、その結果をCloverleafと照らし、Cloverleafの物理状態についても示唆を得ていきたい。また、比較対象としての他の銀河のデータは十分に揃えられているが、一方でCloverleaf自身について他の周波数帯のデータや、より空間分解したデータは、現在の各種の望遠鏡の性能を考えると既存のデータ以上の質のものがまだ望めると考えられる。引き続き、Jansky VLA干渉計での低周波数帯の観測提案を行うとともに、ALMA干渉計での高空間分解観測の提案も行い、Cloverleafの物理状態と分子組成の対応づけを進めていきたい。
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