近年急速に観測例が増えた爆発後1日以内に発見される超新星の測光観測に基づき、爆発直前の大質量星の質量放出率を系統的に調査した。初年度にさまざまな星周物質の条件下で500程度の理論モデルを構築し、爆発直前の赤色超巨星が典型的に年間0.001太陽質量以上の割合で質量放出をしていることを明らかにした。通常の赤色超巨星は年間0.00001太陽質量以下の質量放出をおこなっているため、赤色超巨星が一般的に爆発直前に向けて質量放出率を上昇させていることが明らかになった。初年度以降も理論モデルの構築を続け、現在15万モデルほどに達している。このモデルを観測と比べることで、今後爆発直前の質量放出と超新星の爆発の性質の関係を明らかにできると期待される。また、多次元輻射輸送流体力学計算の結果、ほとんどの場合は星周物質の形状は球対称に近いと考えられることが明らかになった。爆発直前の大質量星の中心部での進化が何らかの形で表面での質量放出を誘発している場合に球対称に近い質量放出が起こると考えられる。赤色超巨星の表面付近での爆発直前に大質量星の中心部での活発な元素合成の結果強く生じる対流が表面の質量放出率を誘発する可能性がある。他にも、赤色超巨星の表面の力学的不安定による質量放出も球対称の質量放出を誘発する可能性があるが、このような質量放出は進化のどの段階でも起こりうるため、爆発直前に一般的に起こる質量放出率の上昇の機構としては適切ではないと考えられる。
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