本研究は、すばる望遠鏡の近赤外線観測装置IRCSに波長1.984ミクロン帯の光を透過する狭帯域フィルター(NB1984)を新たに開発し、地上望遠鏡でPaα輝線を捉えることができるもっとも近傍宇宙(赤方偏移0.05-0.06)の銀河に狙いを絞って観測を行う計画である。すばる望遠鏡の補償光学を用いた高解像度観測を行うことで、各銀河を巨大分子雲のスケールにまで分解してその内部の物理状態を調査することを目的としている。一年目(平成30年度)に上記の狭帯域フィルターを開発し、二年目(令和元年度)には無事にIRCSへの搭載を完了して同フィルターを一般共同利用に公開した。三年目(令和2年度)にはこのフィルターを用いる近傍銀河のPaα輝線観測提案がすばる望遠鏡の共同利用観測として採択され、5天体についてJバンド、Kバンド、NB1984の3つのフィルターで観測を実行することができた。新型コロナウイルスの感染拡大によって研究期間を延長した四年目(令和3年度)には、さらに追加で4天体について同様の観測を行う機会に恵まれ、合計で9天体のデータが揃ったところである。なお本研究では、すばる望遠鏡のレーザーガイド星システムのアップグレードに合わせて観測を実行する予定であったが、その開発スケジュールの遅れによって、すばる望遠鏡では長期間にわたりレーザーガイド星を使う補償光学観測が受け付けられない状況が続いた。しかし本研究では、自然ガイド星で観測可能な天体を厳選し、近傍銀河の高解像度Paα輝線観測を実現することに成功している。新型コロナウイルス感染拡大の影響で研究協力者との対面での作業ができず、データ解析作業に遅れが生じたため繰越を行ってきたが、最終年度(令和5年度)にはデータ解析も実施し、複数の異なるタイプの近傍銀河について、空間分解したPaα輝線強度分布を描き出すことができた。
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