研究課題/領域番号 |
18K13591
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
朝比奈 雄太 国立天文台, 天文シミュレーションプロジェクト, 特別客員研究員 (00783771)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁気流体 / 輻射輸送 / 一般相対論 / 降着円盤 / ジェット |
研究実績の概要 |
X線連星などの降着天体から噴出する宇宙ジェットは星間空間に大きな影響を与えている。ジェットの加速機構には磁気圧による加速や輻射圧による加速が考えられ、磁気流体計算や輻射を考慮した計算等がされてきたが、その詳細は明らかになっていない。また、中心天体近傍でジェットが加速され、収束し、遠方で星間空間にどのような影響を与えるのかを統一的に扱った計算は非常に計算コストが高いため行われていない。 宇宙ジェットの形成・伝播・相互作用を統一的に解くために、まずはブラックホール近傍でのジェットの加速領域の計算に着手した。先行研究の多くは、輻射輸送計算を近似的な手法である1次モーメント法で解いているため、光学的に薄い領域の光の伝播やジェット軸近傍の領域、光の交差等を正確に解くことができていないので、輻射輸送をより正確に解くためにボルツマン方程式を解く一般相対論的輻射磁気流体コードを開発した。 テスト計算では光の交差や、散乱体との相互作用計算等を実施した。1次モーメント法では輻射輸送を近似的に解いているため、光学的に薄い領域では非物理的な輻射の衝突が起きてしまい、正確な輻射場を得ることはできない。しかし、新コードではボルツマン方程式を解いているため、輻射の非物理的な衝突は起きず、正確な輻射場を計算することができた。 次にこのコードを降着円盤に適用した。降着円盤の物理量は先行研究のシミュレーション結果を用い、輻射輸送のコード依存性を見るために、流体の物理量を固定し輻射輸送のみを解いた計算を実施した。光学的に厚い降着円盤内部では1次モーメント法と新解法で大きな違いは見られないが、光学的に薄い回転軸付近で輻射場の構造が異なることが確認できた。これは回転軸付近で1次モーメント法では非物理的な輻射の衝突が起きているためであると考えられる。また、流体の物理量を時間発展させた計算も実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は新しい輻射輸送の解法を実装した一般相対論的輻射磁気流体コードの開発と降着円盤への適用を行った。おそらく、この研究で最も労力が必要になるであろうコード開発と適用を、コードの開発状況がある程度進んでいたとはいえ、1年で終えることができ、研究は順調に進展していると言える。 新コードを降着円盤に適用したシミュレーションにより、光学的に薄い降着円盤の回転軸付近では、輻射輸送の解法により、輻射場の構造が変わることを示した。1次モーメント法では光学的に薄い降着円盤の回転軸付近では、輻射の非物理的な衝突が起きてしまうため、回転軸方向にビーミングした輻射場になるが、新解法ではそのような衝突は起きないため、非物理的なビーミングは起きないことを示すことができた。 以上のことは、ジェットやアウトフローなどに輻射が与える影響が輻射輸送の解法によって変わる可能性を示している。先行研究においても、輻射輸送の解法を変えたシミュレーションはあるが、同時に流体の解き方も違うために、純粋に輻射輸送の解法の違いにより結果が変わったのかが判別できていない。しかし、新コードでは流体の解き方を変えることなく、輻射輸送の解法を1次モーメント法と新解法で切り替えることができるため、輻射輸送の解法の影響のみを議論することができる。このように輻射輸送の解法のみの影響を論じることができるのが、新コードの強みであり大きな成果の1つであるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、ボルツマン方程式を解く一般相対論的輻射磁気流体コードを降着円盤に適用し、輻射輸送の解法によって得られる輻射場が変わることを示した。今後の研究では、現在得られている結果を解析するとともに、ブラックホールのスピンパラメータや降着円盤の密度、磁場形状、磁場強度等を変化させた計算を実施し、ジェットの形成条件や質量降着率、質量流出率等の依存性を調べる。いくつかのモデルについて、1次モーメント法でもシミュレーションを行い、輻射輸送の解法がジェットや降着円盤に与える影響について明らかにする。 以上のシミュレーションから得られたジェットの情報を用いて、加速領域と遠方の相互作用領域を関連付ける中間領域の計算を実施する。具体的には得られたジェットの物理量を境界条件として、より外側の領域を計算していく。中間領域内でもスケールの違いが非常に大きいので、中間領域内を数個に分割して遠方まで延長しながら計算する。この領域ではジェットがどのように収束されるのか、終端速度はどの程度になるのかを明らかにする。 最後に中間領域の計算結果を用いて、星間ガス相互作用の計算を実施し、超大光度X線源の周囲に観測されているバブル状の構造や、活動銀河核ジェットの星間ガスへのフィードバックなどに適用し、観測されている構造や物理量と中心天体近傍領域の物理量との関係を解明する。 以上のようにして、ジェットの加速・収束・相互作用を統一的に計算するシミュレーションを実施していく予定である。
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