ブラックホールなどのコンパクト天体から宇宙ジェットと呼ばれる高速なアウトフローが噴出していることが観測されている。ブラックホールの周囲のガスは回転しながら落ち込むことで降着円盤を形成しており、ガスが降着するときに解放される重力エネルギーがジェットなどのアウトフローのエネルギー源であると考えられている。ジェットが星間空間中を伝播するシミュレーションやブラックホールのごく近傍のシミュレーションは多く実施されているが、これらの間の空間スケールが大きく異なるため、同時に計算することは難しい。そこでブラックホール近傍から遠方までの宇宙ジェットの統一的な描像を得るために、初めにブラックホール近傍のシミュレーションを実施し、その結果を用いてより遠方領域のジェット伝播のシミュレーションを実施した。 2020年に発表したブラックホール近傍の輻射場をより正確に解くことのできる一般相対論的輻射磁気流体コードINAZUMAを用いてブラックホール降着円盤のシミュレーションを実施した。先行研究で多く使われている輻射輸送の近似解法と比較すると、光学的に薄い回転軸付近で輻射場に違いが現れることがわかった。この違いの原因は光学的に薄い領域で近似解法では輻射が非物理的な衝突を起こしてしまうためである。アウトフローの質量噴出率や運動エネルギー流出率などには大きな違いは見られなかった。この結果をまとめた論文がThe Astrophysical Journalから出版された。 さらにブラックホール近傍の降着円盤シミュレーションで得られたジェットやアウトフローの物理量を用いて、計算領域を広げた遠方領域の計算を実施した。INAZUMAと近似解法でアウトフローの描像に大きな違いが見られなかったため、輻射輸送は計算コストの低い近似解法を採用している。その結果アウトフローは十分遠方まで伝播できることが確認できた。
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