研究課題/領域番号 |
18K13593
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
金子 紘之 国立天文台, 野辺山宇宙電波観測所, 特任研究員 (10648702)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 銀河 / 星間物質 / 電波天文学 / 銀河群 |
研究実績の概要 |
平成30年度では、COMINGデータを用いて、銀河の環境の違いによる分子ガスの質量への影響を調べるため、恒星質量で規格化した分子ガス、原子ガス質量を導出した。さらに全ガス質量中に分子ガスが占める割合を算出し、各銀河環境(孤立銀河、銀河群、銀河団)間での比較を行った。孤立銀河と銀河団の間ではこれら3つのパラメータのうち、原子ガス質量のみ、過去の研究と同様に、減少傾向が見られた。一方、孤立銀河と銀河群では、いずれのパラメータで差は見られなかった。これらの結果は、原子ガスの選択的剥ぎ取り、衝撃波加熱によるガス供給の抑制、銀河間相互作用による効率的な分子ガス形成などが働いていないことを示し、銀河群が小型の銀河団である、という仮説を否定するものである。なお、この後、追観測に基づくデータの追加と、一部データの修正が発生したため、最終サンプルを使っての再解析を実施中である。 また、孤立銀河、銀河群、銀河団のそれぞれの環境において、分子ガスと恒星が銀河中心に対してどの程度中心集中しているかを表す中心集中度を導出し、分子ガスや恒星の分布が受ける影響について比較を行った。この結果、複数の分類法を用いても、それぞれの環境で分子ガス、恒星ともに有意な差は見られなかった。 銀河群、銀河団内では銀河間重力相互作用の影響も考えられるため、これらの影響程度を検証するため、異なる半径内に含まれる分子ガス量の比(上述の中心集中度の分母も変化させたもの)を導出し、恒星のそれと比較した。銀河半径の1/4と1/2での比において、相互作用している銀河で有意に分子ガスの中心集中度が高く、逆に恒星の中心集中度が低いことが分かった。これは銀河半径の1/2付近から分子ガスが角運動量輸送で効率的に銀河中心へと輸送されることを示唆していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
追観測に伴うデータのリダクション及び一部データリダクションのパラメータの見直しと再実施が発生したことにより、最終サンプル確定が平成30年度までずれ込んだ。また、銀河群の分類は、カタログにより差異が見られるため、これらを相互に検討して本研究に適当なカタログを決定することにも若干の時間を要した。このため、当初の見積もりよりも研究進捗はやや遅れることになった。 現在は、これらの状況は解決しており、遅れを取り戻すべく精力的に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
最終サンプルに基づいて、初年度に得られた「銀河群の分子ガスの性質は、銀河団とは異なり、ガス質量や割合、中心集中度には差がなく、むしろ孤立銀河的な性質を持つ」という結果を追試し、その結果を論文化する。 また、環境効果はその特性上、銀河外縁部に影響が及ぼされる可能性が高いことから、銀河分布の非対称性についても孤立銀河などと比較を実施する。 質量やガスの割合については、銀河全体での差異を調査したが、COMINGの「銀河を空間分解する」というデータの特色を生かし、銀河内の領域では違いが見られないか、ピクセルベースでの検討を実施していく。 併せて、これらの影響が銀河相互作用によるものか、銀河群、銀河団による広域での共通した性質によるものかを切り分けるため、相互作用銀河における同様の比較も並行して行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入したワークステーションを当初予定より10%程度安く購入できたこと、および所属機関の研究費を用いて国際研究会へ参加したため。 平成31年度では、国際研究会参加への旅費と、世話人として実施計画している国内研究会の旅費補助に使用を予定している。
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