研究実績の概要 |
星間空間を漂うダストの数密度,サイズ,化学組成,結晶構造,形態はダスト生成の初期過程である気相中での核生成に支配される.近年,シリケイトなどの酸化物系ダストの核生成経路が極めて多様であることが理論,実験的に明らかになってきた.本研究では,シリケイトダスト生成を模擬した実験系において,0.1-100 nmスケールでの物質進化を “その場” 測定する. 最もシンプルなシリケイトダストは,Mg,Fe,Si,Oから成る四成分系であり,生成メカニズムの解明には多成分系の核生成過程を明らかにする必要がある.気相中で前駆体となる分子クラスターや,核生成過程における中間相のナノ粒子は,生成物とは異なる化学組成を取りうる.前年度にAl-O二成分系の核生成過程を,さまざまな酸素分圧条件で赤外分光スペクトル測定し,生成物は透過型電子顕微鏡を用いて調べた.その結果,酸素の不足した条件では非結晶相からの相分離を経て,金属の頭と,酸化物の尾をもつ特異な異方性をもつナノ結晶が生成した.本年度は,Mg, Si, OおよびFe, Si, Oの三成分系,Mg, Fe, Si, Oの四成分系で,核生成実験を行った.二成分系の実験と同様,酸素に不足した条件では,金属と酸化物に分離した構造が見られた.Mg, Si, Oの三成分系の透過型電子顕微鏡観察によって,酸化物の尾の格子縞パターンがエンスタタイト (MgSiO3) に同定された.一方,酸素に富む条件では,フィルステライト (Mg2SiO4) しか生成しなかった.酸素に富む晩期型巨星の赤外スペクトルからは,フォルステライトとエンスタタイト両方の生成が示唆されており,酸素分圧の違いを反映している可能性がある.Fe, Si, O及びMg, Fe, Si, Oの四成分系では金属の頭がFeとSiの合金であるのに対して,酸化物の尾にFeは含まれなかった.このことは,星間空間でのFeの存在形態解明につながる可能性がある.
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