本研究の目的である高精度水素・窒素同位体比分析を実施するために,まず試料表面の研磨技術の検討,および研磨が困難である微小試料の固定技術の開発を行った。 異なる程度の変成・変質プロセスを経験した隕石 (CM1,CM2,CHコンドライト)を用い,研磨技術の検討・確立を行った。まず,合金を用いた利用した治具の開発・改良により,有機物の同位体組成に影響を与えないよう,有機物の同位体組成に影響を与える可能性のある水,メタノールやエタノールなどのアルコール溶媒,そして樹脂などの有機物質を一切使わない乾式研磨手法技術を検討した。研磨には主にアルミナ (最小1ミクロン)を利用した。試料表面の評価は,主に金属反射顕微鏡と走査型電子顕微鏡 (SEM)を利用した。スライドグラスへの固定の一部には少量の樹脂を用いたため,SEM観察による樹脂の混入 (炭素質物質の汚染)の影響を評価した結果,分析に用いる試料表面への汚染の影響はなく,表面の乾式研磨手順を確立した。 さらに,研磨やスライドグラスなどへの固定が困難なミクロンサイズの微粒子については,金属圧着技術手順を検討・確立した。金属板やダイヤモンド板など,基板による圧着状態を検討した結果,金ディスクを利用した圧着方法が最適であると判断した。この手法は,有機物の汚染を最大限除去するため,主に洗浄および加熱が可能でもあり,有機物試料の同位体比分析に適している。また,この手法は始原的隕石から抽出した高分子有機物試料にも適応可能であることを検証済みである。 本研究では有機物を多く保存し,さらには水素および窒素同位体異常をもつ有機物の存在が既に確認されている始原的隕石を用いたが,開発した治具は,異なるサイズや硬度の試料においても適応可能であり,本研究で使用した隕石試料以外の地球外試料の前処理技術としても応用できるはずである。
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