研究課題
本研究は海王星軌道の外側に分布する太陽系外縁天体(以下、外縁天体)およびそれらと関係性の高い小天体集団に対して観測データに基づく統計的調査を実施することにより太陽系外縁部における微惑星の形成・進化過程に関する理解を深め、太陽系初期に起こったと考えられている巨大惑星移動に伴う小天体の大規模軌道進化の解明に迫ることを目的とする。令和元年度はすばる望遠鏡の超広視野撮像装置 Hyper Suprime-Cam(HSC)を用いて取得した黄道面領域サーベイデータの解析を進め、低い軌道傾斜角を持つ外縁天体の天体サイズに対する個数の頻度分布(以後、サイズ分布)を直径100km 未満までのサイズ範囲で導出した。そのような天体はこれまで強い力学作用を受けておらず、現在と同じような領域で形成された始原性の高い天体と考えられており、そのサイズ分布は太陽系初期の微惑星集積を探るうえで最も直接的な手掛かりであると言える。我々の測定から得られたサイズ分布は、以前から指摘されていたとおり折れ曲がり(broken power-law)が見られるが、べき指数や変曲点は先行研究のものとは一致せず、これまで知られていたサイズ分布形状を修正する必要性を示す結果となった。また、木星トロヤ群のサイズ分布とは一致しない一方、海王星トロヤ群のそれとは形状が類似していることが確認された。外縁天体の起源・力学進化や他の小天体集団との関係性を探る有力な手掛かりが得られたと言える。現在これらの結果をまとめた投稿論文を執筆中である。また、本結果は国際研究会「JpGU-AGU Joint Meeting 2020」にて報告される予定である。さらに、平成30年度に引き続き、HSCによる海王星トロヤ群天体の観測提案が採択されて2019年10月に観測を実施、良質なデータを取得することができた。現在データ解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
データ解析に一区切りがつき、結果をまとめた投稿論文を執筆中である。国際研究会での発表も決定している。それと並行して新たに取得した観測データの解析も進めている。
すばる望遠鏡 HSC により取得されたデータを使って強い力学励起を経験している高軌道傾斜角外縁天体のサイズ分布を測定し、低軌道傾斜角のそれと比較することにより、外縁天体の形成・力学進化を探る。また、昨年度に引き続き、特定の領域を観測した多数の画像を重ね合わせ、極めて暗い外縁天体を検出するための技術開発を進め、衝突進化の効果が卓越することによって生じるサイズ分布形状の遷移を検出することを目指す。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で出張が禁止になり、予定していた研究会への参加を断念したため。別の研究会への参加もしくは物品(データストレージなど)の購入を予定している。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Planetary and Space Science
巻: 169 ページ: 78-85
10.1016/j.pss.2019.02.003
Bulletin of the American Astronomical Society
巻: 51 ページ: -
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 71 ページ: -
10.1093/pasj/psz103