研究課題
九州西岸において過去50年間に主太陰半日周潮(M2)の潮位振幅が減少している。本研究はこの原因を明らかにすることを目的とする。2020年度までの研究で、九州西岸のM2潮汐の年変動がregionalなものであること、東シナ海及び日本近海の成層場の変動が内部潮汐場を通じて表面潮汐場に影響を与えることが示されていた。最終年度となる本年度は、前年度に構築した東シナ海と日本近海を対象とした数値海洋モデルの計算領域を、顕著な内部潮汐の発生域として知られるルソン海峡と伊豆・小笠原海嶺域を含む領域に広げるとともに格子幅を細かくし、内部潮汐の解像性能を高めたものへ改良した。その上で北西太平洋海洋長期再解析の水温・塩分場、海面高度・流速場の年変動をモデルに与え、九州西岸域を含む西部北太平洋の成層・地衡流場の年変動に対するM2潮位振幅の変動を調べた。その主要な結果として、ルソン海峡で黒潮が西偏する時にルソン海峡・台湾海峡・台湾東方海域および東シナ海のM2潮位振幅が顕著に減少することが分かった。この原因としてはルソン海峡において黒潮の変化に伴い内部潮汐の発生・伝搬に変化が生じ、台湾海峡および台湾東方を通じた東シナ海との潮汐エネルギーの交換が変化するためだと考えた。一方伊豆・小笠原海嶺域においても内部潮汐場の変動は見られたものの、その九州西岸潮位変動との関連は明瞭でなかった。本研究でルソン海峡の内部潮汐場の変動に伴った九州西岸のM2潮位振幅減少プロセスの可能性が新たに提示されたものの、現実的な九州西岸のM2表面潮汐の年変動に関して数値モデルによる再現は十分ではなかった。本研究で考慮していない九州西岸の潮汐振幅の長期変動を生じる要因としては、成層の変動が鉛直渦粘性の変動を生じ、体積輸送量の変動を通じて潮位振幅に影響を与えるプロセスが考えられる。この検討に関しては、今後の研究展開の上での課題としたい。
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Scientific Reports
巻: 10 ページ: 1-11
10.1038/s41598-020-74938-5