研究課題/領域番号 |
18K13614
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
前島 康光 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, リサーチアソシエイト (90509564)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | データ同化 / メソ気象学 / 局地的豪雨 |
研究実績の概要 |
課題2年目である今年度は、1年目に研究を進めた雷発光データ同化を行うために必要な観測演算子を改良し、実際にゲリラ豪雨を対象としたデータ同化実験を行うための準備を行った。観測演算子とは、データ同化を行う際に、数値モデルの変数と観測データの関係性を記述する式である。100万分の1秒のオーダーで観測される雷の発光位置と、数値気象モデルの物理量との関係を記述するために開発した観測演算子を検討しなおし、より高い精度のデータ同化実験を行うための観測演算子構築に向けた研究を行った。 一般的に、強い上昇気流と多量の氷晶(主にあられ)の存在し、その氷晶同士が衝突する際に雷が発生する。そして詳細な雷発生の基準は、Takahashi(1978)の室内実験によって明らかにされている。代表者は、まず雷発光データと同じ水平解像度100 mの数値モデルに30秒毎に観測可能な大阪大学吹田キャンパスに設置されたフェーズドアレイ気象レーダーを同化して、豪雨発生時のベストエスティメートとなるモデル格子点の値を得た。そして、Takahashi(1978)での基準を踏まえつつ、数値モデルの同化サイクルと同じ30秒毎に、モデルの氷晶の質量と、雷の発光頻度を比較した。雷の発光頻度が低い場合には、異なる対流系の間に伝播する雷の結果を拾ってしまうため、上記の方法では良い関係性を見出すことが出来なかったが、30秒間で20回以上の発光頻度を持つ場合に絞ることによって、発光頻度とモデルの氷晶の質量との相関係数が0.78という関係性を見つけた。この関係性は、観測演算子記述の上で大きな礎となり得る。以上の研究成果は、2020年度日本気象学会周期大会にて口頭発表を行うべく準備を進めた。残念ながらコロナウイルス感染拡大によって口頭発表は行うことが出来なかったが、学会予稿にその成果を発表、公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請段階における年次計画では、1年目の研究到達点として観測演算子の構築を挙げていた。そのための具体的なプロセスとして、(1) 高精細・高精度な数値モデルデータセットの成、(2) 雷の先行研究のレビュー、(3)雷発光データとモデルデータとの比較、の3つを提示していた。 平成30年度までに(1)に関しては、気象レーダーデータを同化した高解像度のシミュレーションを行って、30秒毎、100mメッシュの数値モデルデータセットが出来上がっており、計画を達成済みである。平成31年度は(2)に関して、Takahashi(1978)をはじめとした雷現象そのものの研究、さらにDickson et al.(2016)のレビューが終わり、この点についても計画が達成された。さらに平成31年度は(3)に関しても、観測演算子記述に向けた取り組みが一通り行われ、それらの成果は既に学会で発表を行える段階に達した。平成30年度まで課題に残された観測演算子構築の精緻な記述については、平成31年度に概ね達成さてた。 全体を通して進捗を振り返ると、申請書での年次計画事項は全て遂行されており、順調な進捗が図られていると言える。一点、実際のゲリラ豪雨事例を対象とした雷データ同化実験に関しては、その準備にとどまっており、具体的なデータ同化実験とその結果の評価は3年目に持ち越された。そのため2年目の研究計画の評価は、「概ね達成された」とする。  
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今後の研究の推進方策 |
3年目の研究計画は、前項末尾に記載した申請書の年次計画と大きな変更はない。 本年度は構築した観測演算子を用いた雷データ同化実験に取り組む。まず少数の観測データを1回同化することによって、同化の前後で具体的にどのようなインパクトがあるか検証する。そして同化システムでおかしな挙動がないか、技術的側面についても十分な確認を行う。1回同化で妥当性が確認された段階で、本格的なデータ同化実験に移行する。雷発光データ同化が具体的にゲリラ豪雨の予測改善のどうつながるか、検証を行う。また、雷発光データ同化によって数値モデルで表現される大気がどのように変わったのか、物理的な解釈についても留意しながらデータ同化実験を進める。 本研究のデータ同化実験においては、局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF, Hunt et al. 2008)を用いるが、この際には複数の物理的、あるいは数値的なパラメータが存在する。これらのパラメータはいわゆるtunable parameterであり、同化を行う観測データによってチューニングがなされる必要がある。本研究では、データ同化実験の結果、およびゲリラ豪雨予報改善の結果に対する評価を通じて、パラメータ群の最適化にも注力する。本研究で取り扱う雷発光データは、世界でも唯一無二の新しい観測データセットであるため、データ同化の際のパラメータ最適化を図ることも課題の一つであり、科学的な成果となり得るものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年1月以降、コロナウイルス世界的感染拡大に伴い、参加・講演を予定してた国際会議が相次いで中止となってしまった。そのための旅費として計上していた予算が消化できなかった。また、同時期に計算データ保存のためのディスクアレイを拡充する計画があったが、業者の休業、物流が著しく滞ったこと、また事業所内が原則在宅勤務に切り替わったことにより、予定通りに調達することが出来なくなった。 2020年5月25日の段階で全国で緊急事態宣言が解除になり、今後国内の物流に関しては平常に戻ることが予想される。まずはディスクアレイの拡張に向けた整備を行うことを計画しており、そのために予算を使用する計画である。国際会議・国内学会に関しては、今後のコロナウイルスの動向によるため、現段階では全く不透明であるが、開催が決まったものがあれば積極的に参加し、そのための旅費として予算を使用する計画である。また引き続き学会の開催が見送られる場合は、用途の変更を行うことも検討している。
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