暖候期を中心にしばしば発生する局地的豪雨は近年「ゲリラ豪雨」とも呼ばれ、予測が難しい気象現象の一つとされている。本課題では、最新の気象観測ビッグデータとして「雷の発光位置データ」を採用し、これを理化学研究所で開発中の数値気象予報システム“SCALE-LETKF”を用いて同化することで、「ゲリラ豪雨」の予報精度を飛躍的に高めることを目的とした研究を遂行した。 観測データを同化する際は「観測演算子」と呼ばれる、観測データと数値モデルの変数を結び付ける数式に基づき、観測・モデル両者の誤差相関が最小となる値を推定する。本研究では、観測された雷の発光位置や頻度と、数値モデルにおける上昇気流の強さ、雨・あられなどの降水粒子の多寡との統計的関連性を多項式で記述し、雷発光データ同化の観測演算子を構築した。 続いて開発した観測演算子を“SCALE-LETKF”に導入し、数値気象モデルに雷発光データを同化するための実装を行った。そして、2015年8月13日の「ゲリラ豪雨」事例を対象に、① 雷発光データのみを同化した場合、② フェーズドアレイ気象レーダーデータ・雷発光データ、双方を同化した場合、③フェーズドアレイ気象レーダーのみを同化した場合、④何も同化しなかった場合、の4種の気象シミュレーションを、気象庁の現業予報で用いられる最もメッシュの細かいモデルの20倍の解像度に相当する、水平解像度100mで行った。そして、4種類の気象シミュレーション結果を比較して、「ゲリラ豪雨」予報精度がどのように改善したのかを定量的に議論した。その際、降水量等の精度をスコアリングすることはもちろん、観測データの同化が気象シミュレーションのプロセスにどう影響を与えたのかについても具体的に言及した。本課題による成果によって、2022年度日本気象学会SOLA論文賞受賞を受賞した。
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