研究代表者は、熱帯域の波活動に伴う循環場を3次元に捉える理論の開発、解析手法の確立に向け、研究を進めてきた。今年度実施した理論研究は、東京大学の佐藤薫教授と波に伴う物質輸送の解析を進めた。水平方向の輸送に着目した解析を進める中、ある解析手法では停滞性擾乱に伴う輸送の一部が表現できない問題が見つかった。この問題を避けて表現する方法を見出し、これまで解析してきた図の修正を行った。その結果、ロスビー波に伴う輸送、重力波に伴う輸送の卓越領域を特定するなど、上部対流圏から下部成層圏における波に伴う物質輸送の3次元構造を明らかにすることが出来た。この研究は次年度に論文化できる見込みである。大型ゴム気球を用いたラジオゾンデ観測研究は2022年、琉球大学にて行った観測データを用いて上部成層圏の気象場の解析を行い、論文にまとめ投稿、受理された。米国ウィスコンシン大学マディソン校のHitchman 教授と共同で実施している研究は、高解像度の再解析データを取得し、西太平洋域における波活動とそれに伴う物質層の解析を引き続き進めている。 研究期間全体を通し、本研究では複数本の論文、招待講演を含む多くの国内・国際学会での発表という形で成果をあげることが出来た。また今後、これまでに導出してきた様々な波に伴う3次元物質輸送の理論を用いた鉛直輸送の表現の違いから新たな解析手法を構築するといった新たな課題を見つけることが出来た。さらに、これまでの研究活動が評価され、日本気象学会学術委員会が取りまとめる「日本の気象学の現状と展望2024」のテーマ「大気力学」の一部、そして日本学術会議SPARC小委員会が取りまとめる「日本の中層大気の現状と展望」のテーマ「大気力学」および「今後の観測計画」の一部について執筆依頼を受け、波に伴う3次元物質輸送の理論の現状と高高度ゾンデ観測に関する記事を執筆した。
|