研究課題
将来の気候変動に伴う海面変動が危惧されており、気候変動に対する氷床融解メカニズムの解明は喫緊の課題である。特に南極氷床の全球的な海水準上昇に占める割合は今後増えると予測され、南極変動メカニズムの解明が不可欠である。その解明には過去の南極氷床変動史および気候変動に対する応答過程の復元が重要である。特に、南極の質量収支は氷床の表面高度から推定されるが、氷床下の固体地球の変形の影響を考慮しなければならない。その影響は氷床荷重によるアイソスタシーに起因し、時間スケールは数千年から数十万年である。したがって、過去数万年間の南極氷床変動の復元が現在および将来の南極氷床の評価・予測には不可欠である。約2万年前は最終氷期最盛期と呼ばれ、全球的な氷床量が最大に達していた時期である。最終氷期最盛期以降の南極氷床融解史の復元は、上述の理由で過去のみならず、現在・将来の南極氷床の理解に不可欠である。しかし、南極氷床変動の復元につながる海水準・氷床変動の直接的な記録の時間的・空間的な欠損のため、最終氷期最盛期以降の南極氷床融解史は不確実性が大きいのが現状である。本研究課題では、南極氷床の復元に有用であるGIAモデルを用いた手法の一つであるフィンガープリントの特色を活かし、最終氷期最終氷期前後の南極氷床史を復元することを目的とした。フィンガープリント法は、南極から離れた地域の海水準データを用いて南極氷床変動史に制約を加えることが可能である。フィンガープリントに不可欠である全球的な氷床変動史は、旧氷床域から離れた北西オーストラリア・ボナパルト湾から復元された海水準変動曲線を用いる。平成30年度は全球的な氷床変動史に復元を行い、国際誌に発表した。そして、令和元年度は公表した全球的な氷床変動史に基づいてGIAモデルによる計算を実施した。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者は、当該年度の後半に第61次日本南極地域観測隊に参加した。そのため、本研究に従事できたのは前半の約半年間であったため、研究計画遂行のため研究期間を令和2年度まで延長した。研究の推進に不可欠な全球的な氷床変動史は既に国際誌に公表済であり(Ishiwa et al., 2019)、フィンガープリントによる実験を開始している。また、GIAモデルによる氷期の南極氷床変動の復元に関する研究は国際誌に投稿済であり、現在査読中である。これらの成果は国際第四紀学会および日本地球惑星科学連合大会で発表し、国内外の研究者と議論を進めている。
既に構築済である全球的な氷床変動史に基づいたフィンガープリントによる南極氷床変動史の復元を行う。特に、最終氷期最盛期前後に着目し、アイスコアをはじめとする他の古気候記録と比較・検証を実施し、氷期における南極氷床変動メカニズムの解明を目指す。研究成果は国内外の学会で発表し、国際誌に投稿する。
研究代表者は、当該年度の後半に第61次日本南極地域観測隊に参加した。本研究計画を遂行するため、期間延長の申請を行った。繰越した助成金については令和2年度に論文校閲費、投稿費、学会参加費として使用する計画である。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (4件)