近年、強震動を即時的に予測する地震動即時予測の技術が広く注目されている。地震動即時予測も強震動予測の一環であるから、予測精度向上のためには強震動予測と同様に震源項・地震波伝播項・地盤増幅項それぞれの高度化が重要である。本研究では、このうち地震波伝播項の高度化を目指すものである。 人間が感じやすい地震波の周期帯は比較的短周期であるため、地震波伝播において地震波散乱の影響が無視できない。そのため、本研究では地震波の非弾性減衰と地震波散乱を分離して、その空間分布を推定することを目指した。西日本で発生した中小地震を用いて、地震波エンベロープの空間感度を利用した地震波減衰・散乱構造を推定したところ、九州地方は近畿・中国地方より地震波減衰・散乱がどちらも大きいことが分かった。これは九州地方の活火山等の活発なテクトニクスを反映している。この時は深さのみに依存する1次元地震波速度構造を用いたが、実際の日本列島は複雑な3次元地震波速度構造を持っていることがすでに明らかである。そのため、2023年度では3次元地震波構造の下で地震波減衰・散乱構造を推定することを目指し、関東・中部地方で発生した中小地震のエンベロープ形状からそれぞれの震源・観測点ペアにおける地震波減衰・散乱パラメータを推定した。 また、得られた空間不均質性を持つ地震波減衰・散乱構造を地震動即時予測に取り込み、その有効性を検討した。2016年熊本地震を対象としたシミュレーションを行ったところ、不均質な地震波減衰・散乱構造を用いたほうが一様な構造より地震動の予測精度が向上することを確かめた。また、適切な地震波散乱モデルを使用することにより、地震動の最大値のみならずその経過についてもより正確な予測が可能となることがわかった。
|