研究課題/領域番号 |
18K13624
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中村 淳路 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (60817419)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 宇宙線生成核種 / 侵食 / モンスーン / テクトニクス / 照射年代 / 加速器質量分析 / 10Be / 26Al |
研究実績の概要 |
氷期-間氷期変動に伴い,降水量は変化してきたと考えられている.それではこの降水量の変動に伴って,山地の侵食速度は変化してきたのだろうか?本研究はモンスーン域における過去数万年間の山地の侵食変動を復元し,降水変動と侵食の関係性を明らかにすることを目的とする.2019年度は前年度から行ってきた測定のバックグラウンドの低減について目標値を達成した.さらに並行して,曽文渓河口から得られた堆積物コア試料の化学処理を行った.また,侵食変動に対する宇宙線生成核種の濃度変化についてモデリングを行った. 宇宙線生成核種の測定では,Be同位体比の低いキャリアを用いることが不可欠である.そこで Beキャリアに適した鉱物を効率的に選定するための初期分析方法を開発した.また鉱物に由来し分析を妨害する10Bの除去方法を確立するため,化学処理における各段階での試料中のBの濃度を測定した.得られた結果からBの除去効率を求め,これらの成果を国際学会にて発表した. 曽文渓河口に広がる沖積平野は沈降速度が極めて大きく,流域から供給された土砂が一部の年代を除いてほぼ連続的に堆積している.そのため,最終氷期から完新世にわたる年代範囲において,分析に必要な砂サイズの石英が同一地点から得られる世界的にも稀な地域である.分析手法の改良と並行して,本年度はこの曽文渓河口から得られたコア長300メートルの堆積物コア試料の化学処理を行った.まず,前年度に石英の観察により決定した分析対象深度の試料を篩にかけ,粒度毎に分級した.次に磁性分離器により磁性鉱物を分離した.さらに塩酸,ケイフッ化水素酸,フッ化水素酸を用いた化学処理によって岩片や石英以外の鉱物を溶解し,石英試料を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化学処理方法の改良による測定のバックグラウンド低減について,実試料の測定に必要な,低バックグラウンド測定を達成した.得られたBe同位体比は日本の測定機関での測定としては最も低い同位体比である.また,過去2万年間の曽文渓河口の石英試料を得ることができた.さらに約5万年前から2万年前の試料についても複数の深度において石英試料を得た.本研究は通常の分析よりも粒度の小さい砂試料を分析対象としているが,酸処理方法の調整によって石英以外の鉱物を溶解し,石英のみを残すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
得られた石英試料からBeおよびAlを単離し,加速器質量分析器による同位体比の測定を行う.試料処理は本研究によって改良した化学処理法を用い,低バックグラウンド測定を行う.さらに石英中の核種の蓄積モデリングと組み合わせることのにより,集水域スケールの侵食速度の時系列変動を復元する.数値計算については,ミューオンによる核種生成の物理過程を組み込んだモデルによって,侵食速度を復元する.
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次年度使用額が生じた理由 |
化学処理に用いるホットプレートについて代替品を使用したため,次年度使用額が生じた.次年度使用額は実験器具の消耗品に使用する予定である.
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