研究課題/領域番号 |
18K13626
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
椎名 高裕 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (70796151)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高周波後続波 / 沈み込み帯 / スラブ内地震 / 地震波散乱 / 地震波減衰 |
研究実績の概要 |
東北地方下に沈み込む太平洋プレート(スラブ)内で発生した地震では,しばしば後続波(直達P波や直達S波に続いて観測される波群)と呼ばれる特徴的な地震波が観測される.本研究では,特に,東北日本下の深さ100 km以深で発生したスラブ内地震で観測された高周波後続波(8 Hz以上の高周波帯域で観測される直達S波の後ろで観測される波群)の解析を行った.注目した高周波後続波の最大振幅は直達S波の到達から最大で50秒程度遅れて観測される.このような顕著な最大振幅の到達時刻の遅れは,沈み込み帯前弧域に散乱体が分布することで説明できる.本年度は,観測波形記録のより詳しい解析を行い,散乱体がおおよそ30-80 kmの深さ範囲に分布する可能性を示した.加えて,前弧域と背弧域に対して期待されるS波減衰特性を考慮すると,東北日本沈み込み帯では,散乱体の分布だけでなく,火山フロントを挟んだ前弧域と背弧域でのマントルウェッジの減衰コントラストによって.高周波後続波が明瞭に観測されると考えられる. 北海道においても高周波後続波の観測状況を詳しく調べ,その空間的特徴を整理した.北海道では,高周波帯域の地震波形記録の特徴が火山フロントに沿っても変化することがわかった.この観測事実は,島弧走向方向に大きな変化のない2次元的な不均質向上中の地震波伝播が示唆される東北地方と異なり,北海道では地震波減衰や散乱構造に3次元的な不均質性が存在し,それらが高周波帯域の地震波伝播に影響していることを示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東北地方下のスラブ内地震で観測される高周波後続波の観測に寄与する散乱体が分布する深さ範囲がおおよそ30-80 kmであることを明らかにした.また,沈み込み帯前弧域と背弧域下のS波減衰,特に両地域の減衰コントラストの大きさやその影響を定量的に評価した.その結果,極端な強度を持つ散乱体を導入しなくとも,最大振幅をはじめとする,高周波後続波の特徴を説明できる可能性が示された.ただし,現状は単散乱モデルに基づいた解析や議論にとどまっている.現実的な沈み込み帯における減衰・散乱構造を構築するために,今後は数値シミュレーション解析などを実施し,多重散乱など,異なる散乱モデルを含め,高周波後続波の波形特徴をより詳しく検討する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
モンテカルロ法による高周波波群の伝播シミュレーションを行い,高周波後続波と減衰・散乱構造との関係を調べる.その際,より現実的な減衰・散乱構造を考慮したシミュレーションを行うことで, 東北日本だけでなく北海道における高周波後続波の伝播過程と減衰・散乱構造の関係解明を行う.そのうえで,東北日本や北海道の沈み込み帯における短波長不均質構造のモデル化を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響により予定していた複数の研究打ち合わせや学会への参加が延期あるいは中止となっため,翌年度への繰り越しが生じた. 当該年度までの未使用分は,延期した研究打ち合わせならびに論文の執筆や投稿に関わる費用として使用する予定である.
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