東北日本下で発生するスラブ内地震ではしばしば高周波帯域(>8 Hz)に卓越したS波の後続波(高周波後続波)が観測される.本課題では,この高周波後続波が東北日本沈み込み帯の前弧域を経由した散乱波であることを示した.加えて,前弧域と背弧域におけるマントルウェッジにおけるS波減衰コントラストが高周波後続波の観測に寄与していることが示唆されている. 本年度は,昨年度に引き続き,モンテカルロ法を用いた数値シミュレーションを用いて,高周波後続波に対して観測される特徴を説明する沈み込み帯の不均質構造を検討した.具体的には,マントルウェッジの減衰コントラストのみを考えた昨年度のモデルに対して,島弧地殻や太平洋スラブを導入した構造モデルを構築し,シミュレーションを実施した.その際,S波速度構造も考慮した.それにより,マントルウェッジにおけるS波減衰コントラストが高周波後続波の観測に重要であるという結果とともに,島弧地殻に地震波速度がトラップされることでS波コーダ波の継続時間が増加することがわかった.この結果は,高周波後続波の長い継続時間が島弧地殻の内部構造を反映していることを示す. 本課題を通して,スラブ内地震で観測される高周波後続波と東北日本沈み込み帯のS波減衰および散乱構造との深い結びつきが明らかになった.なお,本課題で得られた成果の多くは高周波後続波が減衰構造に強く影響された波群であることを示す.このため,課題当初に目的とした沈み込み帯前弧域の散乱構造に対する知見は,それらが島弧下部地殻からマントルウェッジ内部に存在することを指摘したに過ぎない.一方で,特に,高減衰域を迂回する伝播経路を持つ波群が存在することは,今後,散乱構造を含めた沈み込み帯の不均質構造やスラブ内地震の震源過程に関する研究を進める上で重要な知見となると考えている.
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