研究実績の概要 |
本年度は,アパタイトー塩水系の反応実験の立ち上げを行うとともに,東南極セールロンダーネ山地の反応帯の熱力学解析と反応輸送モデリング,三波川変成帯の岩石ー水反応帯の野外調査と化学組成分析により,地殻浸透率の実効値と破壊によるその変動過程を明らかにした. アパタイトー塩水系の反応実験では,水酸アパタイト・フッ素アパタイトの焼結体および単結晶とNaCl, HCl, NaF, NaOH溶液など種々の溶液を300-450℃で反応させ,粒界拡散による拡散プロファイルの作成を試みた.その結果,水酸アパタイトーNaCl, HCl水溶液系では置換反応が進まなかったが,フッ素アパタイトーNaOH水溶液系での置換反応の進行が確認され,現在さらなる条件の制約と拡散プロファイルの生成を試みている. セールロンダーネ山地の反応帯解析では,花崗岩質岩脈ーグラニュライト反応帯(0.5 GPa, 700°C),グラニュライトー水反応帯(0.5 GPa, 600°C),直方輝石角閃石片岩ー水反応帯(0.3 GPa, 450°C)の反応帯に対して,熱力学解析により亀裂ー母岩間の流体圧分布を制約した.また,アパタイト中の塩素およびフッ素の亀裂ー母岩間の濃度プロファイルに対して反応輸送モデル解析を行い,流体活動の時間スケールを制約した.以上より,花崗岩質脈ーグラニュライト反応帯は100~300日,グラニュライト/直方輝石角閃石片岩ー水反応帯は1~6時間の極めて短い流体活動であったこと,その母岩の浸透率は10^-20~22 [m^2]と低い値で一致することが明らかになった.一方,花崗岩質岩脈や亀裂は10^-15 [m^2]以上の非常に高い浸透率を持ち,流体の優先的な流路であったことが示された.以上より,流体圧上昇と亀裂生成によるダイナミックな浸透率変動を天然岩石より実証することができた.
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