これまで多種・硫黄同位体分析を行ってきた様々な時代の花崗岩類に含まれる硫化鉱物について、その同位体比が初生的かどうかを検証するため、花崗岩類の薄片作成を行った。新たに導入した偏光顕微鏡を用いて岩石の記載を行うと共に、全岩分析にて硫化鉱物の硫黄が抽出可能だった試料について薄片観察を行った結果、ほとんどの試料で硫化鉱物の存在を確認できた。 これら硫化鉱物はその産状から、(1) 珪長質な鉱物 (石英や長石類)に包有されるもの、(2) 鉱物の粒間に存在するものがあるが(3) 苦鉄質な鉱物 (黒雲母や角閃石)に包有・隣接するものの3つのタイプに分類した。 観察する限りほとんどの花崗岩試料の硫化鉱物は(3)に分類された。マグマ中での硫化鉱物の成因を考慮するとタイプ3の硫化鉱物は初生的だと考えられるが、変質によって硫黄が付加された可能性は否定できない。 そこで、斜長石のソーシュライト化や、黒雲母・角閃石の緑泥石化を指標として試料の変質の評価を行った。斜長石のソーシュライト化や、黒雲母・角閃石の緑泥石化は熱水反応に伴って進行する。この過程で必ずしも硫黄が付加するわけではないが、斜長石のソーシュライト化や黒雲母・角閃石の緑泥石化が進行していない試料はより元の同位体記録を保持していると考えられる。観察の結果、これまで多種・硫黄同位体を分析してきた、太古代を含む花崗岩試料の半分程度は上記判別法で元の同位体記録を保持していると考えられた。 これら初生的同位体比を保持するであろう花崗岩試料と、熱水による二次的変質を被っているであろう花崗岩試料の多種硫黄同位体比を比較したが、特に明瞭な傾向・関係性は見られなかった。また特に40億年前の花崗片麻岩は変成作用を被っているものの、包有される硫化鉱物の多くはタイプ3であり、片麻岩であっても初生的な同位体情報を保持していることが薄片観察から示された。
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