本課題では地球型惑星分化過程における核-マントル間の水素分配に実験的な制約を加えることを目的としている。本年度では前年度からの方針転換により、引き続き急冷実験により金属鉄―ケイ酸塩液相間の水素分配係数を推定することを試みた。高圧実験では前年度用いた窒化ホウ素が鉄、ケイ酸塩両方と実験中に反応してしまうことから、代わりにSiO2ガラスカプセルを用いた。出発試料には高純度鉄およびエンスタタイトコンドライト、または中央海嶺玄武岩組成の酸化物混合試料に水素源としてMg(OH)2をH2O換算で0.25または0.5 質量%になるよう加えた。出発試料を入れたSiO2カプセルの周りを白金カプセルで封入した。高圧実験は2GPaおよび1923Kの条件で行った。回収試料中の水素量は前年度で確立した分析前処理手順によりアセトンで除去可能な樹脂に埋め試料研磨した後、試料をアセトンから剥がし、インジウムに固定した。回収試料の水素は京都大学理学研究科に設置されている二次イオン質量分析装置を用いて定量を行った。回収試料急冷ケイ酸塩ガラスの水素量はH2O換算で0.25質量%加えた試料では0.13~0.24質量%、0.5質量%加えた試料では0.53質量%であり、いずれも出発試料に加えた水素量と同程度であった。2GPaは固体鉄の水素化圧力付近の条件ではあるがこの条件では液体鉄ではなく、ケイ酸塩メルトに水素が分配されうることが示唆された。急冷実験では液体鉄に分配された水素量を推定することができない点が不利ではあるが、今後はより結果を精査するため、金属鉄を含まない試料と比較実験を行い、急冷ケイ酸塩ガラス中の水素量の比較から金属鉄-ケイ酸塩液相間の水素分配係数の推定を行っていく必要があると考えている。
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