地震時の断層面上における滑り速度の時系列は、地震波を用いて逆解析され、膨大な事例が蓄積されている。それらに見られる様々な経験則を説明すべく、研究期間全体を通じて数理モデルを提唱し、その説明能力がどの程度であるかを定量化した。新たなモデルでは、地震の多様性と統計的性質に対応するため、従来型の決定論的モデルではなく、確率微分方程式 (SDE) に基づくモデル化を試みた。特に、SDE の解自体を断層滑り速度と解釈すると高周波成分が過多となり経験則を満たさないことから、 SDE の2つの解を畳み込み積分して得られる関数を滑り速度とした。この関数が満たす断層滑り速度についての経験則は以下のとおりである:[経験則1]: 滑り速度は非負で連続、非零な範囲が有限であり、かつ多くの場合は単峰的である。 [経験則2]: 滑り速度を時間積分して得られる関数 (地震モーメントに比例する量) は、破壊開始からの経過時間の3乗に比例する。 [経験則3]: 滑り速度の Fourier 振幅スペクトルは、高周波側で周波数の2乗に反比例する包絡線を持つ。 [経験則4]: 地震モーメントの最終的な大きさの出現頻度はべき分布、すなわち Gutenberg-Richter 則に従う。
最終年度においては、このモデルの数理的な性質のさらなる解明と、地震波放射効率との関係を考察した。まず前者については、前年度までに経験則1の単峰性および経験則2が数値的に確認できていたところを、数学的に示すことに成功した。その他の経験則は既に裏付けが得られていたため、これで4者全てについて、なぜこのモデルで説明できるのかが理解できたことになる。後者については、2つの確率過程の畳み込みについてこれまで提唱してきた物理的な意味に基づき、断層面から放射される弾性波のエネルギー量がどのようにコントロールされるかを推測する手立てを考案した。
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