研究課題
本研究の目的は、地球深部への水の供給口として重要かつ未探査のトランスフォーム断層と断裂帯に注目し、海洋リソスフェア中の水循環過程を究明することである。具体的には、海洋底や陸上で得られたマントル物質の岩石物性・磁気測定と、地質学的背景の異なる複数の海底断裂帯で取得された海上・深海磁気異常の解析を通して、蛇紋岩化分布(水分布)の特徴を把握し、水分布モデルを構築する。本年度は、フィリピン海・四国海盆のコアコンプレックスを対象に研究船「よこすか」による研究航海を実施し、地球物理データ及び岩石試料採取した。その結果、量および場所的には限られるもの、採取の難しい下部地殻および蛇紋岩試料の採取に成功した。得られた試料については、航海後に分取・整形作業を行い、岩石磁気・物性分析を行うための準備を進めた。地球物理データの解析も順調に進んでおり、本航海でマルチビーム音響測深器により得た海底地形データ、プロトン磁力計により得た地磁気データの解析を実施した。これまでには、得られた蛇紋岩岩石磁気データの新たな解析手法に関する論文、熱水変質が海洋性地殻の磁化構造に与える影響に関する論文、海嶺軸オフセット近傍での深海磁気データの解析と磁化構造に関する論文の査読付国際誌3編、海域地球物理観測の総集および南半球のテクトニクスの総集を査読付和文誌2編を出版した。今後の研究では、昨年度に引き続き課題1「岩石磁気・物性研究:蛇紋岩化反応と磁性と密度変化の関係を解明」と課題2「トランスフォーム断層・断裂帯の磁化構造モデル推定」を進め、課題3「トランスフォーム断層と断裂帯における水分布モデルの構築」の達成を目指し、物質研究と地球物理データ解析の知見集約を進める。
2: おおむね順調に進展している
課題1「岩石磁気・物性研究:蛇紋岩化反応と磁性と密度変化の関係を解明」について、初年度、2年度目でフィリピン海・四国海盆のコアコンプレックスと北海道・神居古潭帯において、十分な量の蛇紋岩およびカンラン岩試料を採取した。また、西太平洋の海溝斜面で得られた蛇紋岩およびカンラン岩試料を新たに入手した。既に得られているインド洋・中央インド洋海嶺の蛇紋岩試料と合わせて、これら試料の岩石磁気・物性分析を順調に進めている。また、得られた蛇紋岩岩石磁気データの新たな解析手法に関する論文と、熱水変質が海洋性地殻の磁化構造に与える影響に関する論文の計2編を査読付国際誌に出版した。課題2「トランスフォーム断層・断裂帯の磁化構造モデル推定」について、インド洋のマリーセレステトランスフォーム断層と、西太平洋の納沙布断裂帯、フィリピン海・四国海盆のコアコンプレックスにおいて取得したデータの解析を進めた。海上磁気異常データ、深海ディープ・トウ磁気異常データ、深海自律型無人潜水機による磁気異常データの質は全て良好で、船体磁化補正を行い地磁気異常値を導出した。マルチビーム音響測深器で得られたデータを解析し、磁気・重力モデリングの境界条件となる海底地形図を取得した。また、海嶺軸オフセット近傍での深海磁気データの解析と磁化構造に関する論文1編を査読付国際誌に出版した。課題3「トランスフォーム断層と断裂帯における水分布モデルの構築」については、鹿島断裂帯からフィリピン海のコアコンプレックスへ計画変更をした経緯もあり滞っているが、各地域における水分布に関する知見は観測データの解析とともに集約しつつある。
今後の研究では、昨年度に引き続き課題1「岩石磁気・物性研究:蛇紋岩化反応と磁性と密度変化の関係を解明」と課題2「トランスフォーム断層・断裂帯の磁化構造モデル推定」を進める。課題3「トランスフォーム断層と断裂帯における水分布モデルの構築」の達成については、各地域における知見の集積を目指す。課題1では今年度新たに中央インド洋海嶺における研究航海で試料採取を予定している。それらの分析とこれまでの結果を合わせて海底蛇紋岩の包括的な岩石磁気・物性データとしてまとめるのを進め、反応条件の違いなどによる地域性を明らかにする。課題2ではインド洋・マリーセレステトランスフォーム断層、西太平洋・納沙布断裂帯、フィリピン海・海洋コアコンプレックスにおいて導出した深海・海上地磁気異常データを用いて磁化構造モデリングを進める。課題1で得られた試料毎の蛇紋岩化度と磁性の関係と、観測地域の磁化強度分布をもとに3海域における蛇紋岩化度分布を推定し、水分布モデル構築の基盤とする。
新型コロナウイルス感染症に伴う業務対応のため2020年3月に予定していた出張が中止となり、計画していた執行が変更となったため次年度使用額が生じた。次年度使用額は本研究遂行に必要な消耗物品購入に利用予定である。
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