研究課題/領域番号 |
18K13639
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
矢部 優 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球内部物質循環研究分野, ポストドクトラル研究員 (30802699)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スロー地震 / 浅部低周波微動 / 地震波エネルギー / 沈み込み帯 |
研究実績の概要 |
2018年度は,南海トラフ熊野灘において,既存の浅部超低周波地震カタログに基づいて浅部低周波微動を検出し,活動の定量化を行った.活動の特徴量としては地震波エネルギーに着目した.地震波エネルギーを評価するために,まず地震・津波観測システムDONETの地震波増幅を陸上の観測点と比較できる形で推定した.これにより,浅部と深部の低周波微動の特徴を定量的に比較することが可能になった.その後,地震波減衰の補正を行なった上で,浅部低周波微動の地震波エネルギーを推定した.その結果,推定された地震波エネルギーは深さ方向に系統的に変化している様子が見られた.この変化の仕方は深部低周波微動の持つ変化の仕方と巨大地震固着域を挟んで対照的であり,脆性塑性遷移を想起させるものであった.また,浅部低周波微動の地震波エネルギーと超低周波地震の地震モーメントの比(Scaled Energy)は,10^-9程度と深部スロー地震の持つ値とほぼ同じか少しだけ大きい値であった.深部と浅部のスロー地震域では温度や圧力といった物理条件が全く異なると考えられるが,両者が定量的に似た特徴を持つということは,そのような条件がスロー地震の発生に大きな影響を与えていない可能性を示唆する.これらの結果は,Yabe et al. (2019, Journal of Geophysical Research)に出版された.さらに,この研究で得られたDONET観測点の地震波増幅補正を利用して,浅部低周波微動のエネルギーの推定をより多くのイベントに対して行いサイズ分布を推定するという研究に共著者として参加した.より多くの観点から浅部低周波微動活動を定量化できると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の第一段階として想定していた既存カタログに基づく浅部低周波微動活動定量化について,研究の着手から論文出版にまで至ることができた.さらに当初の研究計画を超えて低周波微動のイベントサイズ分布の推定という共同研究が開始されており,論文としての出版が近いと期待される状況にまで至っている.この研究成果を用いることで,プレート境界面上の特徴的空間スケールを見積れる可能性があるなど,さらなる研究の発展も期待される. 本研究計画の第二段階は,低周波微動シグナルの検出効率化であるが,この研究を推進する上で助言を得られるようなコネクション作りも2018年度に行うことができた.地球科学に情報科学の技術を導入する研究グループに参加し,情報科学者とそれらに興味を持つ地球科学者達と協力関係を持つことができた. 上記の事柄を総合的に勘案すると,本研究計画は概ね順調に進展していると評価できると考える.
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に熊野灘沖で行なった浅部低周波微動のエネルギー推定に関しては,地域的なバリエーションを明らかにするために,四国沖や東北日本沖など他の場所に解析対象を広げる.DONET2や先日公開されたS-netなどのデータを活用してこれらの地域での研究を進める. さらに,低周波微動の検出効率化について研究に着手する.教師データを用意することがもっとも重要かつ問題となる部分である.浅部低周波微動については,教師データとなる既存カタログ中のイベント数が少ない.一方で陸上観測網のデータに基づいた深部低周波微動については気象庁カタログに深部低周波地震として多くのイベントが定義されており,教師データとして使用することができる.そこで,まずは陸上の観測データ・地震カタログを用いて,地震・微動・ノイズを判別する機械学習モデルを作成する.その上で,既存の浅部低周波微動カタログを用いて,陸上観測データ用のモデルを海底地震観測データに適用できるモデルへと修正を行う手法の開発を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
GPU計算用ワークステーションの購入が,当初予定よりも安く購入できた.また,他用務にてIODP Exp358へ参加したが,その乗船期間が海外学会(AGU)開催期間と重なってしまい,当初予定していた海外出張を取りやめた.(発表内容については共著者に代理で発表していただいた.)以上により次年度使用が生じた.次年度使用額および次年度の助成金は,新学術領域研究「スロー地震学」の海外研究集会やAGUをはじめとした国内外の学会にて本研究課題の研究成果を発表するための旅費や論文出版費用を中心に支出する.
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