クロサイ族の分類・系統の再検討について、高次分類の帰属に関して見解が分かれていたDiceros douariensisの亜成獣個体の形質を精査した。その結果、突出する眼窩縁、臼歯形態、歯冠セメント、角の数がひとつ、および陥凹の強い頭蓋天井といった形質状態から、同標本をエラスモテリウム族と分類した。これはDiceros属を含むクロサイ族とは異なる結果であり、Yans et al. (2021)の指摘を支持する。またサイ族との近縁性を指摘されていたParadiceros mukiriiについて、模式標本およびこれを産出した地域から見つかった標本群を精査し、系統解析を行った。その結果、D. mukiriiはクロサイ族の最も基盤に位置することが示唆された。また、これよりも派生的なクロサイ族の種群は2系統に分岐することが明らかになった。 経時的な種数と分布変化についてユーラシアとアフリカの化石記録を総括した結果、以下のように考察した。クロサイ族系統が出現したのは中期中新世の可能性が高く、確実なクロサイ属は後期中新世初期に確実に出現した。この時期の種群は北・東アフリカ双方に広く分布し、一部は中国へと分布したかもしれない。後期中新世の中頃(850~700万年前)ころまで北・東アフリカでクロサイ属が分布していたが、それ以降はサハラ以南の東アフリカに限られる。また同時期には地中海東部においてアフリカとは別種のクロサイ属が出現し始めた。 中新世アフリカのサイ科群集と同時期のウシ科およびウマ類の群集変遷の比較を検討した結果、後期中新世初期にウマ科が出現し始め、ウシ科の種数は増加傾向にある。一方でサイ科の種数の減少傾向が認められた。これらの臼歯の安定同位体比分析と古環境変化の結果を踏まえると、後期中新世初期から生じた草原優勢環境による影響が各分類群の多様性に影響していると考察した。
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