研究課題/領域番号 |
18K13650
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
木村 由莉 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 研究員 (50759446)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脊椎動物化石 / 進化古生態学 / 同位体生態学 / 小型哺乳類 |
研究実績の概要 |
本事業では,研究の一環として,現生の小動物に炭素および酸素の安定同位体比が一定である餌と水を与えて飼育し,その子供(第二世代)を対象に,切歯のエナメル質,血液(体水分),呼気の同位体比を測定する.今年度は,小動物(ラット,ハムスター,スナネズミ )の飼育を開始し,同位体分析の実験を進めるにあたり設備環境を整え,実験条件を最適化するための予備実験を行なった.設備への支出として,水と血液の酸素同位体分析に必要な液体インジェクションポートを導入し,液体サンプルの測定を可能にした.また,血液から水サンプルを分離するための真空蒸留装置を設計・組み立て,同装置が正常に作動し信頼できるデータを得られることを確認した.同上の装置を利用して,飼育動物に与える飲み水(海洋深層水を採用)の酸素同位体比を測定し,ラボの標準試料となる水サンプルを作成した.飼育個体の呼気中の二酸化炭素を測定するために,コンタミネーションなく容器に一時保存できるように工夫を施した呼気のサンプリング容器を作成した.呼気中の炭素に関しては,食べ物と呼気の同位体分別値を求めることができ,小動物の分類によって有意な差がないことが明らかになった.ただし,酸素同位体比については,容器での保存が想定以上に困難で,採取から測定まで1日以上空いたサンプルについては,信頼できる値を得ることができないことが判明した.これらのデータを応用する化石については,対象となるサンプルを選別するためのデータベースを作成し始めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の到達目標である設備環境の整備,実験条件の最適化のための予備実験,動物飼育を全て実施することができたため,おおむね順調な進捗状況であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本プロジェクトの2年目となる本年度の研究推進の方策として,化石のデータベース作成と選別を継続しつつ,昨年度の飼育実験で得たサンプルの分析に大きく注力する.具体的には,(1)昨年度に組み立てた真空蒸留ラインを使用してサンプリングした血液から水を抽出後,液体インジェクションにより酸素同位体比を測定し,(2)すでに飼育が終了した個体から歯エナメルと骨を取り出すためのサンプル化を進め,(3)サンプル化した個体の歯エナメルと骨を対象に部位ごとに炭素および酸素の安定同位体比を測定し,(4)体内でのターンオーバーにかかる日数を割り出し,(5)餌-歯エナメル・骨間,飲み水-歯エナメル・骨間の同位体分別を計算し,化石データに応用する準備を整える.化石については分析対象として選別した標本を借用し,CT撮影を行い,3Dデータを獲得する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に配分されていた予算のうち約72万円を翌年度分として請求する計画である.次年度に繰り越す理由として,今年度に計画した標本選定と分析のための海外出張を次年度に行うためである.申請前には,標本を選定と歯エナメル質の赤外線レーザー照射による炭素および酸素の安定同位体比の分析のために別々の海外出張を計画していたが,申請後の予算配分額を考慮して,これらの2つの出張を1つに集約することとした.標本選定に関しては,協力関係にある研究者とメールを通じてやり取りすることで研究に遅れが生じないように工夫しており,次年度に繰り越すことによって効率的に予算を執行できることと考えている.赤外線レーザー照射による炭素および酸素の安定同位体比の測定は国内に該当装置が存在せず,米国の複数の期間が所持している.このうちユタ大学とコンタクトを取っており,次年度に分析を実施できるものと判断する.
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