本研究は,ホイスラー構造を持つAuCuAl合金の延性化機構の解明と生体機能材料への応用を目的とする.ホイスラー構造をもつ金属間化合物は,強磁性形状記憶合金,熱電変換材料などさまざまな機能材料としての応用が期待させるが,多結晶では非常に脆い.このためAu2CuAl基合金の粒界脆化の機構を解明することで本合金の生体機能材料への実用化の可能性を検証する.Au-Cu-Al合金を実用化するためには強度や延性などの機械的特性を向上させることが重要である.まず,第二相の添加により,析出硬化または分散硬化により,材料の機械的強度が向上することはよく知られている.また,Au-Cu-Al系の熱弾性マルテンサイト相(Doubled B19)は,材料に外部応力が加わると,マルテンサイトの双晶変形を起こすことができる.合金が変形すると,マルテンサイトの再配列により応力集中が緩和され,合金のクラック発生が抑制され,双晶変形により合金の延性が増加する可能性がある.この延性の向上は双晶誘起塑性効果として知られており,鉄鋼でも見られる現象である.また,Doubled B19マルテンサイトは転位の移動の障害となるため,局所的な不均一変形や加工硬化を抑制することによる強度向上が期待される.そこで,本研究では,AuとCuの組成制御により,Au-Cu-Al合金のfcc α相にDoubled B19マルテンサイト相を導入することによる機械的性質の向上を目的とした. α相単一の合金はα相とDoubled B19マルテンサイト相の両方を有する合金と比べて比較的低い破壊ひずみであることが明らかとなった.この延性の向上は, Doubled B19マルテンサイト相の再配列に起因すると考えられる.Au-Cu-Al系fcc α相合金の強度と伸びは,Doubled B19マルテンサイト相の導入により改善されることが明らかとなった.
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