研究課題/領域番号 |
18K13663
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
森 直樹 立命館大学, 理工学部, 助教 (00802092)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非破壊評価 / 超音波 / 接着接合 / ガイド波 / ラップジョイント / 接着界面 / 機械材料・材料力学 |
研究実績の概要 |
接着接合部と弾性波の相互作用について基礎的な知見を得るため、接着接合部を接着層と2か所の被着体・接着層界面としてモデル化した二重界面モデルにおける垂直入射縦波の反射・透過特性を理論的に検討した。縦波の波長が接着層厚に比べ無視できない場合、層内の共鳴によって反射/透過係数が極小/極大となる周波数が発生し、これらの極小/極大周波数は接着界面剛性によって変化した。さらに接着前処理の異なるアルミニウム合金接着板に対して実験的検討を行った結果、反射/透過係数に極小/極大が生じ、その周波数は接着状態によって異なることを示した。この結果として、反射/透過係数の極小/極大周波数から接着界面剛性を評価できる可能性を示した。一方、波長が接着層厚に比べて十分小さい場合、接着層と界面を単一のスプリング界面としてモデル化できることを示し、その界面剛性を理論的に導出した。 得られた知見に基づき接着接合部をスプリング界面としてモデル化し、平板の単一重ね接着部(ラップジョイント)におけるラム波の反射・透過特性について理論解析を行った。低周波数域の0次反対称(A0)モードを入射する場合、A0モードの反射/透過係数は複数の周波数で極小/極大を取った。これらの極小/極大は、ラップジョイント端部で発生した多重反射波の干渉に由来することを示した。板厚が等しい平板のシングルラップジョイントにA0モードを入射する場合、A0モード透過係数の極大周波数は接着部の接線剛性の増加に伴い単調増加する一方、垂直剛性にはほとんど依存しないことがわかった。この結果により、A0モード透過係数の極大周波数から接着部の接線剛性を推定できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平板を伝わるガイド波の一種であるラム波を用いた接着部の健全性評価のみに研究対象を限定していた。しかしながら、接着部における弾性波の挙動を基礎的な観点から検討したところ、ラム波のみならずバルク波による評価も有効である可能性が出てきたため、両者に対して理論解析・実験的検討を行うこととした。 接着部における縦波の反射・透過についての検討では、反射/透過係数の極小/極大周波数から接着界面剛性の推定を行った。得られた界面剛性値によって、接着部の状態を非破壊的に評価することが可能になると期待される。また、合わせて実施した理論解析によって、接着部のモデル化についての有用な知見が得られた。 ラム波による平板重ね接着部の健全性評価についての検討では、上で得られた接着部のモデル化についての知見に基づき、理論解析を実施した。その結果、低周波数A0モード入射時の透過係数を測定することで、接着部の接線剛性を評価できる可能性が示された。評価に有効であると考えられるラム波モードと周波数域について理論解析で得られた知見は、今後実験的検討を進めていく上で有用であると考えられる。 以上のように、本年度に得られた知見は研究目的の達成に向けて重要な役割を担うことが期待される。よって、現在までの研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平板重ね接着部におけるラム波の反射・透過特性について得られた理論的な知見に基づき、ラム波による重ね接着部の健全性評価に向けた実験的検討を行う。2018年度に実施した検討の中で、アルミニウム合金製のシングルラップジョイントを予備的に作製し、透過ラム波の測定を行った結果、A0モード入射時の透過係数が複数の周波数で極大を示すことを確認した。2019年度は、得られた極大周波数から接着部の接線剛性推定を行い、さまざまな接着状態の試験片に対して本手法を適用する。接線剛性の推定値と接着状態との関係について考察し、ラム波の透過スペクトルに基づく重ね接着部の評価可能性を検討する。 また、健全性評価の高度化に向けて、時空間逆フィルタリング法の定式化を理論的な観点から行う。3次元波動伝搬シミュレータ内で提案手法を適用し、その妥当性について調べる。波動の集束法である時間反転法に関する知見を活用し、段差部を含む平板構造におけるガイド波の集束法について検討する予定である。前述のラム波透過特性について得られた知見に基づき、集束時に用いる時間波形を選定し、提案手法の有効性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、大振幅の超音波を発生させる高周波増幅器の導入が健全性評価法の構築には必要であるとして、その分の予算を2018年度に計上していた。しかしながら、2018年度に行った理論的・実験的検討の結果、超音波送信装置系の改良は現在のところ必要ないと判断したため、当初予想していた予算使用額を下回る結果となった。その一方で、2018年度の研究成果から、さらなる実験的検討のためには超音波の受信装置系を改良する必要があると考えている。このため、次年度使用額を用いて超音波受信装置の改良を2019年度に行う予定である。
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