機械可動部では摩擦・摩耗の低減のために潤滑油が用いられている。潤滑油は、主成分である基油と極微少量の添加剤から成る。潤滑油が摩擦・摩耗を低減させるのは、摩擦面に潤滑膜を形成させて金属同士の接触を妨げるためである。潤滑膜には、基油が流体力学的に作用して形成させる流体膜と、添加剤が金属表面に自発的に形成させる自己組織化膜がある。摩擦低減のために基油の粘度を下げる傾向にあり、その場合、流体膜が形成されにくくなることから、添加剤の自己組織化膜による潤滑の重要性が高まっている。本研究は、添加剤により形成されるnmオーダーの凹凸(自己組織化ナノテクスチャ)による低摩擦な潤滑システムの創成を目的として実施された。脂肪酸に代表される油性添加剤は表面に吸着しても脱離しやすく、表面形状計測や化学組成分析などのex-situ計測の際に基油を除去すると一緒に剥がれてしまうため、in-situにて計測する必要がある。本研究では、自己組織化ナノテクスチャの形成過程を調査するために、転がり接触下で高精度に膜厚分布が計測可能な計測システムを開発した。本計測システムは、添加剤の分子サイズを定量的に捉えるために十分な0.1 nmの分解能で潤滑膜厚を空間分布として計測できる。本計測システムを用いて、これまでに、自己組織化ナノテクスチャの形成に対する添加剤の濃度の影響を調べ、濃度が高いほど成長速度が速く、到達膜厚も厚くなることを明らかにした。2020年度の研究では、自己組織化ナノテクスチャの形成に対する添加剤の種類や配合の影響を調べ、その結果、直鎖脂肪酸の場合、炭素鎖長が長い方が自己組織化膜の成長速度が速く凹凸が大きいことや、直鎖脂肪酸を組み合わせて用いることでより細かな凹凸が形成されることが明らかになった。複数添加剤により形成される細かな凹凸が基油との相互作用を誘発させ、摩擦低減効果を発現させると推察される。
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