本研究は,風洞実験により乱流境界層中の大規模構造の発生・維持機構を解明し,新規の抵抗低減手法の指針を見つけることを目指すものである.本年度は人工的に大規模構造を生成するための対向噴流型のプラズマアクチュエータデバイス(PAデバイス)を風洞内に設置し,壁からの吹上流を乱流境界層内に定常的に導入した.自作の櫛形熱線流速計プローブを用いて,スパン方向10点で主流方向瞬時流速の同時測定を行った.その結果,乱流境界層内に自然発生する大規模構造と比較して,大きさと強度(主流方向変動)は同程度であるが,meandering(蛇行)が少ない人工的な大規模構造が定常的に生成されることが確認できた.さらに,壁面近傍のバッファ領域で計測を行うことにより,壁面摩擦と関係の強い小スケール渦(バースト渦)と大規模構造の関係を調べた.その結果,自然発生する大規模構造であっても,人工的に生成した大規模構造であっても,低速の大規模構造が存在する時刻(位置)ではバースト発生周波数が低くなり,高速の大規模構造が存在する時刻(位置)では高くなること,およびバースト周波数は大規模構造の主流方向流速によってうまく整理されることが明らかになった.これらのことから,摩擦抵抗を生み出す壁近傍の小スケールの渦構造は対数領域に存在する大規模構造に対してパッシブに応答し,局所的には平衡状態に至っていることが示唆された.これは,大規模構造をうまく制御することにより壁面摩擦抵抗を低減させる可能性があることを示す有用な知見である.
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