本研究は,軽度に微小な系あるいは低圧な系を流体力学的に記述する一般すべり流理論で記述できる現象の範疇の拡大と,同理論に付随するデータベースの充実化により,理論の一層の普及を試みるものである.2018年度に,Shakhovのモデルに対して,一般すべり流理論内の数値データを求め,京都大学学術情報リポジトリ(http://hdl.handle.net/2433/199811)で公開しているデータベースへ追加した.
従来の一般すべり流理論は主に気体の粘性や熱伝導性が支配的な拡散現象に対して確立されている.2019年度からは波動の現象に関するすべり流理論の構築に取り組んできた.滑らかな剛体の運動あるいは温度の変化により起こる単原子分子弱希薄気体の静止平衡状態からの時間発展を音響時間スケール下で線形化ボルツマン方程式に基づいて調べた.小Knudsen数に対する系統的漸近解析により,線形化Euler方程式系と境界層方程式系をそれらに対するとび・すべり境界条件,Knudsen層内の補正公式とともにKnudsen数の1次まで導いた.拡散現象ではKnudsen数の2次のオーダーで現れる希薄化効果のいくつかがより早く1次で現れ,その理由が音響境界層内での急峻な変化と比較的強い圧縮性という音波の性質にねざすものであることを示した.漸近展開で用いるヒルベルト展開法に付随する永年項の問題が生じることを指摘し,その処方箋を与えた.本最終年度ではこの枠組みが通常よくとりあげられる調和振動の場合にとどまらず,より広い初期値境界値問題に対して有効であることを検証した.その結果をまとめ,日本流体力学会年会等で発表した.
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